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異常な程に珈琲が美味しくて、「これどこのブランドですか?」と聞くと、金塚が爛々とした目で珈琲豆を持ってきた。
「え、豆から挽いてんですか?」
「そう。こういうの好きなの。」
「へぇ、本格的っすね。でもなんでしたっけ、ミル?あれ高くないですか?」
「あぁ、ミルとかグラインダーな。ピンキリだけど、うちのはちょっと高いかな。プロが使うようなのは40万とかするけどさすがにそこまでじゃない。」
「高ッ!そんな高いんすか。うぇ〜…でも美味いんでしょうね。」
「まぁなぁ。うちのはまだそれには及ばないけど、そこらの珈琲よりは美味いよ。」
そういう金塚は小さく微笑んでいて、それが楽しそうで心が擽られる。この人の知らなかった事を知る事が、嬉しくてもどかしい。もっと、もっと近付きたい、そう思ってしまう。
「なんか他に面白い事ないですか?」
「随分アバウトに聞くな。例えばどんな事?」
「そうですねぇ…度の休みにやろうと思ってる事とか。」
「休みねぇ、別に決めてはいないけど、気分が乗ったら家具を見に行こうかと思ってる。」
「家具?なんか欲しいものでもあるんすか?」
見渡してみても足りないものなんて無さそうな程、プライベート空間としてはリラックス出来そうな部屋だ。物が少ないわけでもないのに、納まりが良いのは金塚のセンスそのものだ。
「別に欲しいわけじゃないけど、情報収集みたいなもんか。次もしかしたら家具の広告作るかも知れないんだよ。」
「そうなんすね。このカウチとかめっちゃ良い広告だったじゃないですか。金塚さんの得意分野じゃないっすか?」
「全然。そもそも家具とかインテリアとか興味ないからダメなんだよ。このカウチの時も結構情報収集した。お陰で知識はそこそこ付いたけど、あれ以来家具は受けてなかったから新しい知識は何もないし。けど家具とか家電とかは常に進化し続けるから、依頼を受ける時は店とか回って情報を集めてんの。他社の製品を知らなきゃ受けた会社の製品の良さは分からないからな。かと言って仕事として情報くれって言ったって、他社が情報をくれるはずないから、客として店を回って、あくまで買う目的で選んでますって行けば頼まなくても教えてくれる。カタログとかも貰ってこれるから一石二鳥どころじゃない。」
「はぁ、なるほど。」
仕事に対して誠実であり、一生懸命で、受けた仕事には期待以上の成果を出す。それが金塚の仕事に対する考え方だ。
金塚を知れば知るほど、冴島が思っていた人物像とかけ離れていて戸惑う。そして、冴島は自分の人を見る目の無さに呆れてしまった。
こんなに真面目に向き合ってる人に、どうしていい加減な人だと思っていたのだろう。勤務態度も出勤時間が遅いというだけで、思えば顧客からクレームを貰った事はない。
同じ営業部の社員も金塚を煙たがらないのは、この姿勢を知っていたからなのだろうか。だとしたら、とんだ恥さらしは自分の方だ、と冴島は頭を抱えたくなった。
「少なからず損はないから、おまえも自分の目で確かめてみるといい。気づいたら目が養われてたりするぞ。まぁ、休日の過ごし方なんて強要できたもんじゃないから絶対とは言わないけどな。」
「はい…」
「ん?なんだよ、明からさまに暗くなって。」
「なんか俺、恥ずかしいっす。」
「は?」
「なんで俺は今まで金塚さんにあんな態度取ってたんでしょう。なんで誰も教えてくんないのかな。金塚さん、めっちゃ真面目じゃないですか…俺恥ずかしいっすよ。生意気に金塚さんに物言える立場じゃないのに…」
俯き肩を落として自分の手のひらを見つめている冴島を、金塚はしばし見つめた後に小さく吹き出して笑った。
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