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冴島がつまみを作ってはその場で金塚が味見をして、そのままそこで食べてしまうので二人はキッチンに立ったまま、タイムリミットの1時間を迎えた。
金塚の顔はほんのりと赤く、目は虚ろになりつつあって、少し涙の膜が張っている。立っている事に疲れたのか、横を向いて冷蔵庫にもたれかかった。
「はぁー、焼酎は酔うなぁ」
クスクスと静かに笑いながらまた一口煽る。そんなありふれた動作ですら、冴島には不思議なものを見るような気持ちだった。
自分と何が違うのか。全て違うけれど、でも、同じ人間なのに、金塚はひどく精巧に作られた人形のように美しい。けれど、そこには命があって、無機質ではない温もりがある。
人形なら見ているだけで終われたものを、そこに魂を宿すから、触れたくなってしまうのだ。
あの人達の気持ちが分かる気がする。こんな人を自分の思い通りに出来たなら、とてつもない充足感を得るはずだ。綺麗なものを汚すような、新雪を誰よりも先に踏みしめる様な、あの優越感がそこにはあるだろう。
でも、あの人達の様にはなりたくない。
「風呂入ろうと思ったけど、こりゃだめだなー。」
軽快な笑い声を上げてまた一口、酒を喉へと流し込む。それに合わせて上下する喉仏は男のそれなのに、なんで誘引の材料になってしまうのか、冴島にも分からない。
酔っているのだ、自分も。
冴島はそう思う事にした。
「もう寝ますか。腹一杯だし、良い感じに酒も回ってるし。」
冴島が提案すると金塚はへらへらと笑いながら「そうするー」と言ってソファーに寝転び出した。
「ちょ、ちょっと!寝室!寝室行きましょう!てか歯磨き忘れてるから!」
「歯磨きっておまえは俺のオカンか!…はぁー、でもするー。おまえどうする?さすがに飲んでるし泊まってくだろー?」
「え、いや、歩いてもそんな遠くないんで帰りますよ」
「やめとけやめとけ。ふらふら歩いてたらあぶねーだろ。」
実際ふらふらしているのは金塚だけで、冴島はまだ泥酔と言うほど飲んでいないし、酔ってもいない。だが、美味い酒のせいかいつも飲み会などで飲む量よりは多く、些か不安がないわけではない。道中で寝る事はないが、具合が悪くなったら面倒だった。
「じゃあお言葉に甘えて。俺ソファーで良いんで、なおさら寝室行ってくださいよ。」
「あいあい、分かってますよ。歯磨きしまーす。」
倦怠感のある動作でソファーから起き上がり、洗面台に向かって歩き出した。その後ろを冴島は心配そうについて歩く。なんだか今にも倒れてしまいそうな程にふらふらだった。
「え、本当に大丈夫ですか?酒弱いんですか?」
「ははは、弱いねぇ、凄い弱い。」
「え!!マジっすか!?」
「マジですー」
酔うと笑い上戸になるのか、思えば途中からずっとへらへらと笑っていたかも知れない。そうと知っていれば気を付けたが、こうなってしまっては後の祭りだ。
「とりあえずもうベッド行きましょう。寝室どっちっすか?」
「えー、歯磨きしないとー。」
「今日はもういいでしょ」
「ダメ。虫歯は怖いからー。」
「だったらちょっと早くしましょうよ」
冴島が何度も何度も促して、やっとの思いで寝室に連れて行くと、バッタリと倒れこみ、すぐに寝息を立て始めた。
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