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深いため息の後で、鳴瀬は不意に真顔になって話し始めた。
「俺は金塚とおまえの関係について、とやかく言える立場でもないんだけど、ただ、金塚がおまえを選んだのなら、それは祝福したいと思ってるんだ。おまえにも幸せになってほしいっていう気持ちはあるしな。」
予想外の言葉に冴島は面食らっていた。
「いや…あ、ありがとうございます。」
「元々おまえと張り合えるとも思ってなかったんだよなぁ。金塚とどうにかなれるなら、おまえが来る前からどうにかしようとしてただろうさ。けど、あの件があったし、それで流れてしまったものを俺はどうする事も出来なかった。今となってはしようとしていなかったのかも知れないとすら思うけど。ただな、おまえと絡んで仕事をするようになってから、金塚も少しずつ変わってきたと思うから、その変化の理由を知りたかった。それが、俺では駄目だったっていう納得できる理由であれば、この気持ちにも区切りがつくかと思うんだ。」
ずっと心の中に燻っていた思いが、何もなくして消えることもない。会う事がなければいつかは忘れてしまえたかもしれないが、その点、同じ職場で毎日の様に顔を合わせなきゃならなかったのは難儀だった。
嫌でも自分の気持ちを認識してしまうし、再確認してしまう。そして、何かの拍子に好きという感情をつのらせてしまうのだ。
鳴瀬自身も、自分ではコントロールできないこの感情に終止符を打ちたかった。
両想いになれて、恋人になれれば良かったのか。
金塚にはもうそんな気がないのは一緒に居て嫌というほど分かっていた。
あのことがなければ上手くいっていたのか。それすらも分からない。
「こんな事を俺が言うのは烏滸がましいけどな、幸せにしてやってくれ。あんな事があって、アイツは色んな事に臆病になってる。それは当たり前だと思うよ。同じ男として、アイツが失った尊厳を思えば俺だってアイツと同じことを考えるだろうな。」
それは冴島にも理解できる。
自分にもし同じ事が降りかかったら…それは想像を超える事なのだが、間違いなく平常ではいられない。
体と心に傷を負った。
人として、男として、何かを失ったはずだ。
それを冴島が埋める事は出来ないかもしれないが、また、別の何かを与えることは出来るかもしれない。
鳴瀬が出来なかったそれを、冴島には出来るのだろうか。
「幸せにしたいです。…正直、なんでこんなに金塚さんを好きになってしまったのか、自分でも不思議ではあるんですが。」
「それなんだけどな、おまえたちって多分最初から好きだったと思うぞ。」
「……え?いや、え?」
「なんていうかさぁ、これに関してはお互い子供かよって思うんだけど、お互い心のどっかでは好きだったんだと思うんだ。だけどそれを認めたくないから嫌っていた、って事なんだろうなって思うんだよ。」
「え、でも俺、本当に嫌いでしたよ。」
「でもそれって少しおかしいとは思わないか?」
「何がです?」
本当に検討もつかない鳴瀬の考えに、冴島は全くついていけない。
最初から好きなわけがない。
自分の好きな時間に出社して、定時にはきっかり帰る。
他の人が忙しくしていても手伝うことはないし、他の人のためにそんな事をしている姿を見たこともない。
好きだったなんてありえるわけがない。
「おまえってさ、基本的に人懐っこいし、誰にでも好かれるだろう。割と癖の強い人で当たりがキツイことがあっても笑って済ませられるし、そういう人の懐にこそスルッと入り込んでさ。そういうところはおまえの立派な長所なわけだけど、金塚の事に関してだけはどんな小さな事も許さなかったし、何かとすぐに目の敵にしていたろう。事情をしらなければあいつの事をそう悪く言う意味も分かるんだが、正直それを抜きにしても、おまえの金塚に対する当たりは強かったからな。」
「そ…んな事もありましたかね。てか、褒められてますかね、俺。」
「褒めてるよ。だから金塚に関しては珍しいなと思ってたんだ。でも今思い返せば腑に落ちるわけだよ。」
「でも俺、そんなつもりじゃ…それにもし好きだったとして、その気持ちを否定する意味が分からないですよ。」
好きなら好きと認めてしまう方がよっぽど健全な生き方だ。自分の気持ちに無意識ながら背こうとする意味とはなんだったのか。
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