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鳴瀬は冴島が本当に困惑しているので、つい笑ってしまった。
「おまえ、本当に分からないのか?」
「え?えぇ、だって俺って今までの恋愛観では好きになったら一直線なんで、自分の気持ちを否定した事なんてないんすよ。」
「まぁ、そんなタイプだわな。でも根本的な事を忘れてるだろ。そもそもおまえはストレートだっただろ。本来なら金塚は恋愛対象にはならなかったんじゃないのか?」
そう言われて冴島は思い出したように「そうだった」と呟いた。
同性愛者に偏見が全くないとは言えず、かと言って同性愛を否定するわけでもない。そういう人はいると分かっていても、自分の世界には関係のない事だと思っていた。自分は同性を好きになる事はないし、それは嫌悪しているわけではなく、男をそういう風に見た事がないから、端から選択肢にはないだけだ。
それなのにどうして金塚に惹かれ、恋をしたのか。
「なんだったんだろうな、おまえの趣向を変えるほどの金塚の魅力ってのは。」
「…さぁ、俺にも分からないっす。けど、初めて金塚さんに会った時、まだそういう人だとも思ってなかったから素直に思ったんですよね、綺麗な人だなって。男なんてもったいないなぁって思った事があったんです。あれは…あの時から俺は金塚さんに惹かれてたって事なんですかね。」
「さぁな。俺はそう思うけど、本当の所は当人たちにしか分からないさ。でも、おまえも金塚もそういうのは初めてだったんじゃないの?だからお互い困惑してたって言うか、それを好きだって言う感情とは思わなかったって言うか。今までの恋愛を否定するわけじゃないけど、今回のはちょっと違うんじゃないかっておまえらを見てたら思うんだ。」
でも、その気持ちに最後は向き合ったなら良かったんじゃない?と言う鳴瀬の言葉に、冴島は本当にその通りだと思った。もしこの気持ちをそのまま理解しないで過ごしていたら、この先一体どうなっていたのだろう。別の人を愛し、それを本当の恋だと信じてやまなかったのか。それはそれで一つの答えではあるかも知れないが、今の冴島には金塚という存在以上に愛せる人間なんていない。この先も超える事はないと思う。皆、どの恋愛でもきっとそう思っているに違いないけど、ありきたりでもそれが冴島の思う真実だ。正直、これまでの恋愛と比べても、これ以上にその人を諦めたくないとも、全てが欲しいとも思った人は金塚の他に居ない。
どんな言葉を並べても、どんな理由を挙げてみても、結局冴島は金塚そのものを一目で好きになってしまっていたのだ。抗えるような恋ではなかったのだと、今になって思う。
「こんなことを言うと金塚さんに申し訳ないとは思うんですけど、あんな事件がなかったら俺はずっと金塚さんを理解しようとも思わなかった。自分の気持ちにも向き合えなかった。あんな事がなかったら金塚さんは今のようになっていなかったんだとしても、俺はきっと、何かの理由をつけて金塚さんを遠ざけていたと思います。金塚さんを嫌いになれたら理由なんてなんでも良かったんだって…」
「そうかもしれないな。だからおまえは一番ないとも思ってたけど。」
「でも、それに気付かせてくれたのは鳴瀬さんだったんですよね。」
「…自分で墓穴を掘っていたとはね。」
「あの事を教えてくれなかったら金塚さんについて理解しようなんて思わなかった。本当は心が弱い人だって事も、だけど誰かの為なら身を張って、命も削ろうとする人だって、そんな金塚さんの強い部分にも気付けなかった。だから…ありがとうございます。」
冴島は誠心誠意を込めて頭を下げた。
鳴瀬はそれをみて小さく笑い、「おまえのその潔さには負けるよな。」と言った。
それから昼休憩を終えて営業部のフロアに戻ると、金塚は先に仕事に戻っていた。その姿がこれまでよりもずっと愛しく見えるのは、冴島の脳みその恋愛フィルターのおかげだ。
美しく、どこまでも儚げなその姿に冴島はつい、見惚れてしまうのだった。
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