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それから金塚は機嫌を損ねた振りをして、冴島が話しかけてきても返事を返すだけに留めた。
こういうところが子どもっぽいと思われてる事に金塚は気付いていない。
会社に着いてからどんなに腰に鈍痛があろうとも、理由が理由なだけに平気な顔で仕事をこなす。たまに気を抜くと体が傾げる事もあったが、あくまで平静を装った。
昼休みになって喫煙室で長椅子に座ってぼんやりとしていたら、鳴瀬がひょっこりと現れた。
「珍しいな。金塚が職場でボーっとしてるなんて」
「あぁ…鳴瀬か」
「どうしたんだよ」
「…あのさぁ、俺って子どもっぽく見える?」
金塚からそんな事を聞かれると思っていなかった鳴瀬は、金塚を見下ろしながら何度か瞬きを繰り返した。
金塚が子どもっぽく見えた事はないが、気持ちに嘘は付けないところなんかは子どもというより大人になりきれてないと思ったりはする。が、それは社会人という意味合いが強く、大人になりきれてないから子どもなのだと思うわけでもない。
「なんだそれ。誰かに言われたのか?」
「…冴島がさ、プライベートでは子どもっぽい時があるって言うから、そんなの言われた事なかったなぁと思って…」
「でも悪い意味じゃないんだろう?」
「まぁ、話の流れ的には、多分」
「ショックだったのか?」
「いやぁ、そういうわけでもないけど、自分にそんな部分があると思ってなかったから、受け入れ難いというか、不思議というか」
仕事では決断力や判断力を競わせたら右に出るものはいないだろうに、冴島の何気ない一言にこんな風に悩むのか、と金塚の新鮮な姿が鳴瀬には面白かった。これもまた、冴島が引き出した金塚の一部なのだろう。
「もともと金塚の私生活を知ってる人の方が少ないだろう。おまえの懐に入った奴だから見えた部分なんじゃないのか?」
「そうか?なんか俺、友達少ないみたいじゃん」
「現に少ないだろ」
「いるわ!」
「誰だよ」
「あー、だから、…あれだよ、鳴瀬も一応、そうだろ…」
完全に目が泳いでいるのは照れているわけではなく、明らかな嘘だと金塚も分かっているからだ。
「俺はおまえの私生活なんか知らん」
懐に入れなかったのはおまえの方だろう、と言いたい気持ちを抑える。
過去の事を掘り返すのはそれこそ大人気ないが、良い感じになりかけた過去は鳴瀬にとって後悔の一つだ。あの時に力尽くでも何かしら行動を起こしていたら、と思う事は今でもたまにある。
冴島が居る以上、今更どうこうする気は無いが、吹っ切りたいと思ったら吹っ切れるものでもないのが現実だ。
「金塚もそんな事を考えたりするんだな」
「まぁ…でも俺ってそうなのかぁって思うくらいだけどな」
「それでも新鮮だよ。おまえとの付き合いは俺の方が長いのに、そういう一面は知らなかったからな。」
「そうかぁ?結構ボーっとしてるもんだけど」
「でも、気を抜いてるのは滅多にないぞ。あんな事があってから、自分の知らない間に気を張ってたりしてたんだろ。」
確かに男の人とすれ違うだけで緊張していた時はある。それがいつの間にかずっと身構えているようになったのかも知れない。油断していた時なんかには、身体が反射的に動く程驚く時もあった。
電車にも乗れるようになって来て、出来なくなってしまった事を少しずつ取り戻して来た事で、安心感も生まれて来たのかも知れない。
自分が思っていた程、受け入れられないものでもないのだと。
「だけど俺ってそんなに子どもっぽいか?」
「だから知らんって。それは冴島に聞けよ」
「んー…」
腕を組んで唸っている金塚の横で、紫煙を吹きながら「こういうとこがだろうな」と思ったのは鳴瀬だけの秘密だ。
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