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依子は金塚と冴島の前に立ち、腕を組んで説教をし始めた。
「あなたたち、全然なってないわ!まず恋人同士がする事と言ったらなに!?はい、紫さん!」
「え、えーっと、デートですか?」
「ハズレです!デートは付き合う前からする事が可能!はい、大河!」
「夜の営み」
「なっ…最低!宏之さぁん!大河が最低な事言ってる!」
依子が少しでも宏之に助けを求めると、たとえ相手が息子であっても容赦はせずに「依子さんになんて事を言うんだ!」と怒鳴った。
「今更純情ぶったって…子供いる時点でそんなの」
「おい!口を慎め!」
金塚から見ても宏之が冴島を見る目は息子に向ける目ではない。
それでも冴島は飄々としている辺り、これも日常の一コマみたいなものなのだろう。
愛情がないわけではない事はこれまでの経緯で嫌でも分かったので、そういう意味で冴島を不憫には思わないが。
「全然ダメ。あなたたち本当に付き合ってるの?付き合い始めたカップルの恒例行事、それはお互いの呼び方をどうしよっか?って話し合う事です!」
「いや…でも僕たちは同じ職場で働いていますから、万が一職場で間違って呼んでしまったりしたら問題が…」
下の名前で呼び合っているところを誰かに見られたらそれこそ関係を疑われるし、それに仲が良くなっただけだと言っても無理がある。昔からの友人でもなければなかなかそうはならない。
金塚がそれを説明すると、依子は大きな目をさらに開き、絵に描いたような驚愕の表情を見せた。
唇をわなわなと震わせたかと思うと、目にはじわじわと雫が溜まり始める。
「…嘘でしょ?」
「な、何がですか…」
「あなたたち…これは禁断の恋ってやつなの…?」
この人は何を言っているのだ。
金塚は混乱して冴島を見るが、冴島は例の如く能面を貫いている。
「いや、禁断の恋と言いますか…」
禁断の恋などという台詞を自分で言うのも恥ずかしさがある。
それに決してそういうわけではなくて、単純に同性愛である事と、職場で他の社員に無闇に気を遣わせないようにするための配慮だ。
それを依子に伝えると、何故かさらに泣き出してしまった。
「こんな悲しい事がある…?愛し合ってる二人が誰にも祝福されないなんて…」
「依子さん…」
宏之は依子の悲しみとその優しさに心を打たれているようだが、金塚としては自分たちの恋愛事をそう言われる事に恥ずかしさしかなく、何も言えずに俯いた。だが、その行動がさらに依子を誤解させて、ついには冴島に対して「どうして紫さんをこんなに傷つけるのよ!」と怒り出した。
これはどうにも収拾がつかないが、でも方法がないわけではない。
何を思ったのか冴島が金塚に向き直る。
「…紫さん」
冴島が金塚をそう呼ぶと、依子が小さな歓声を上げた。
それには聞こえないふりをして、冴島は金塚の肩を掴んできた。
「俺の事は、大河って呼んでください」
「うっ…」
依子と宏之が見守る中、冴島には真正面から見つめられて、とてもじゃないがこんな状況で冴島の名前を呼ぶなど出来そうにない。口を開いては見るものの、そこから漏れるのは小さな呻きのようなものだけだ。
そしてそれは時間が経てば経つ程に言い辛い状況になっていく。
金塚はみるみると自分の顔が赤くなっていくのが分かり、結局呼ぶ事は叶わずに俯いてしまった。
「はぁ…可愛い…!」
目をキラキラと輝かせて二人を見守っていた依子は耐えられないとばかりにそう呟いた。
宏之も何故かうんうんと頷いているのだが、これはもう金塚にとっても冴島にとっても地獄でしかない。
「そうね…紫さんに無理強いはよくないわ。大河、少しずつ紫さんの心を開いて寄り添っていくのよ。」
依子にとって金塚はどう見えているのか。
過去に恋愛で心に傷を負った少女にでも見えているのだろうか。
あながち間違いとも言わないが、恋愛がトラウマになっているわけでもなければ少女でもない。
どちらかというと、この今の状況の方が余程トラウマになりそうだが、どうやらこの依子の作る物語を終わらせるには、否定するよりは受け流していくしかないのだと察する。
それに何より冴島がそれを実践している時点で、金塚には逃げようもない。
「とはいえ、大河、あなたが紫さんと住むための部屋を用意しようとしていた心意気は認めるわ」
そういえば最初に依子はそんな話をしていた。
そもそも二人がここに来た理由はそこにあったのだ。
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