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「見覚えはないですが…それが何かあるんでしょうか?」
宏之は強面の顔を強く歪め、そのアプリがいつインストールされたのかを調べ始めた。
依子も冴島もその表情には慣れているのだろうが、金塚には人を殺さんばかりだとドキドキするようなハラハラするような心地だ。
しばし画面を操作していた宏之が、再び金塚に画面を見せてくる。
「これ、3年前にインストールされてるみたいなんだけど、この携帯はいつ頃買ったものだろう?」
「えーっと…多分4年くらい前だと思います。」
「それからは一度も変えていないんだね?」
宏之の問いに金塚は一つ頷いた。
「それで、結局そのアプリがなんなの?」
冴島が焦れたように聞くと、宏之は渋い表情を浮かべて顎を摩った。
「このアプリは今はもうインストール出来なくなっているんだが、そうなる前にインストールしてあった人は今でも普通に使用可能でな、このアプリには色んな性能があって例えばこれを通して私たちの会話を聞くことが出来たり、見ることが出来たりもするんだ。それから、遠隔操作も出来る。」
「…それって…」
「つまり、この携帯にこのアプリを入れる事によって、紫くんの行動を監視したり、誰かとの会話を聞く事が出来てしまうんだ。それから、遠隔操作で紫くんの携帯のGPSをONにする事も出来るから、他の携帯と連携さえしておけば、あとは遠隔操作で接続の許可をするだけで紫くんに知られる事なく誰かが紫くんの行動を把握できるようになるんだよ。もちろん、このアプリはそういう行為に利用するために作られたわけではなかったが、残念な事に悪用を考える人もいる。今はこのアプリ自体なくなった筈だが、そうなる前から使用していればその限りではない。」
宏之の言葉に金塚は絶句した。
そういうアプリが存在する事は知っていたが、まさかそれが自分の携帯にインストールされているなんて思いもしなかった。
もし、このアプリが菊田の手によってされていたのだとしたら、これまでの菊田の言動にも納得が行く。
しかし、それを菊田が出来た瞬間があっただろうか。
「それが…本当にそういうアプリだったとして、でも、人の携帯で簡単にインストールなんて出来るものですか?アプリをインストールするにはパスワードが必要だから、それが分からなければ出来ないですよね?」
「それはそうなんだが、こういう携帯やネット関係に強い人には出来るのかも知れないし、そうでなくても何かしらの方法でパスワードを知る事が出来たとしたら、その彼がこれをインストールして遠隔操作していたとしても不思議な話ではない。現に紫くんが自らこのアプリを購入したわけではないのだろう?」
「…はい」
「だとして、その彼がいつこの携帯を紫くんに気付かれる事なく操作できたのか…だ。インストールされたのが今から3年前だが、その頃にその彼との接点はあったのかい?」
そう聞かれて一応過去を振り返ってはみるのだが、やはりどう考えても接点が見つからない。
3年前からこれまでで会話という会話はしていないし、どこかで偶然会ったりした覚えもない。もちろん、携帯を触られるような場面もないので本当にまるで思い当たるものがない。
「本当に全然心当たりがなくて…」
「…3年前…って」
本人である金塚には心当たりがないのだが、冴島にはある事が頭をよぎっていた。
3年前とは、金塚の人生で最悪な出来事があった頃の事だ。
その出来事はいつでも記憶から抹消したいと金塚も冴島すらも思っていたが、そう簡単には忘れられないものであるが、今この瞬間だけはそれを思い出した事に感謝する。
「何か思い当たるものが?」
宏之が冴島に問うが、あの事件の事を冴島が勝手に話すわけにもいかず、視線を金塚に向けた。
その視線の意味を理解した金塚は、自らの口で簡単にあの事件の経緯を説明した。
金塚自身が思っていたよりも話す事に抵抗感がなくて、自分で驚きつつも自分の中でちゃんと過去の事に出来ているのかも知れないと思った。
だが、その話を聞いていた冴島の両親はみるみる表情を曇らせて、依子に至っては目に涙を浮かべてもいた。
「それは…辛いね。そんな事があったなら、大河を受け入れるのも大変だっただろう。」
「いえ…大河くんが根気強く、諦めないでくれたおかげです。」
「紫さん…名前…」
「言うな。俺だって恥ずかしいんだ。それに今はその話じゃない。」
金塚は羞恥にうっすらと頬を染めながら冴島を見る事なく言い放った。
「それで…その事件が大体3年前にあったと言う事なんだね?」
「はい」
「その時に何か彼が関わっていたという事があるのかい?」
「いえ…直接的な関わりはなかったと思うんですが、その事があって自宅でその…自殺をしようとしまして、睡眠薬を大量に飲んでたのを同僚が見つけてくれたんですが、その時に救急車で運ばれて行ったし、同僚も病院に着いてきてくれてたみたいで家を空けていたんです。救急車が来るような状況だから、隣人がその時部屋にいたならば見ていた可能性があると思うんです。」
「なるほど…ではその間に君の部屋に忍び込み、携帯を触る事も可能だったと言うわけか。」
「でも急な思いつきでそんな事が出来るのかしら?紫さんがそうなった事はその方にとっては偶然よね?」
依子の言葉に皆が黙る。
無理矢理こじつけてしまえば通らなくもないが、少し現実的ではない。
かと言って他に何か他に思い当たる事もない。
金塚は何か忘れている事があるのかと考えてみるが、やはり何も思い出せるものはなかった。
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