アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
140
-
「とにかく、紫くんが直接話すのは良くない。相手を無闇に刺激する可能性もある。第三者が話しても聞く耳を持たないかも知れないが、本人が行って何かあるよりは余程マシだろう。それに、このアプリの事を聞くなら私を同行させた方がいい。上手く誤魔化そうとしても私なら対処出来る。」
「と、まぁ今までのは冗談で嫁云々ではなくて、俺も父さんの意見と同じ。紫さん本人が行くのは一番菊田さんの思う壺だと思うんですよ。このアプリを入れた犯人だろうがなかろうが、あの人が紫さんに何かしらの想いがあるのは確かだから。」
本当に冗談だったのか?と思わなくもないが、宏之が言う事も冴島が言う事も理にかなっているように思える。
頼ってしまうのは申し訳ないけれど、今回ばかりはお願いするしかないのかも知れない。
「…分かりました。申し訳ないですが、お願いします。」
金塚が改めて頭を下げると、冴島もそれを習うようにして頭を下げた。
宏之と依子は顔を見合わせた後で静かに微笑んでいたのだが、その優しい眼差しを金塚と冴島は知らない。
「その隣人の彼ね、こちらからコンタクトを取ることは出来るのかしら?」
「あ、はい、多分大丈夫だと…」
「だったらこういう問題は早く解決してしまった方が良いわね。今日早速コンタクトを取りましょ」
「そうだね、そうしよう」
宏之と依子は二人だけで「うんうん」と頷き、唐突に「一度家に帰る」と言ってそのまま颯爽と帰ってしまった。
菊田とはコンタクトが取れ次第、宏之に連絡する事になった。
嵐が過ぎ去ったような閑散とした部屋の中で、金塚と冴島はソファーに腰掛けて二人揃って項垂れ、同時に盛大なため息が溢れる。
「なぁ…」
「…はい」
「おまえの両親、ユニークだな…」
「…ユニークと言えば聞こえはいいですけど、ただ面白がってるだけなんすよね。紫さんの事は真剣に考えてくれてますけど、俺の事は面白がってるところがあるんで、今日来たのもそんな理由ですよ。」
冴島は疲れを追い払うようにこめかみを親指で押した。
だが、ふと視線を感じて隣を見ると、金塚が何とも言えない表情を浮かべて見ていた。
「え、なんすか」
「…いや…おまえさ…」
金塚は物言いたげではあるのだが、言いづらそうに視線を泳がして言葉を濁した。
その言葉の先を何度か催促すると、頬をわずかに赤く染めて噤んでいた口を開いた。
「その…名前、を、呼ぶのはさ…親の前だけでいいんじゃないのか…?」
「…あぁ、え、なんで?別にいいでしょ。俺も言われるまではあんまり意識してなかったですけど、こうなったら別に紫さんと呼んでもね?」
「いや、いや!さすがに恥ずかしくないか!?」
「別に?むしろ特別感があって気持ち高まりますね」
「高まるって…いや…なんていうかさ、ついていけないんだよな…その…順応力が高いっていうか、おまえの若さにはさ…」
「そんな事言って、紫さんだってそんなに歳いってないでしょ」
「だからやめろって…!」
赤面する顔を背けた金塚だったが、それを茶化すように冴島がにやりといやらしい笑みを浮かべて覗き込んで来た。
その顔を覆うようにして手で押し返すと、手のひらをヌルッと生ぬるいものが這った。
「ひぇ…!」
変な悲鳴を上げて冴島の顔から勢いよく手を離す。その悲鳴を聞いて笑っていたが、手の陰から現れた冴島の表情は笑いの中に何やら妖しいものも見え隠れしている。
一体何がきっかけでそのスイッチが入ってしまったのか金塚には分からない。
分かるのは金塚の手のひらを舐めた時点で、冴島の思考も体も夜のモードに切り替わってしまっていたというどうしようもない事実だった。
そして冴島はあろう事か金塚をソファーに押し倒し、上から組み敷こうとしていた。
「おい、なに考えてんだ…!たった今両親が帰ったばかりなんだぞ!」
「それが?」
冴島は本当に意味がわからないという風に首を傾げてみせる。
「どう考えてもこの流れでこういう状態にはならないだろ…!」
金塚が抗議を続けるのだが、その間も冴島の手が止まる事はなく、金塚の抵抗など聞いても気にしてもいない。
そのうち首筋に舌が這い、抵抗と相まって金塚の呼吸が乱れていく。
金塚を触発し、そして触発される事で冴島の体も熱を帯び、心まで焼かれるように燃え上がっていく。
冴島は無意識に自身の形を変えたものを金塚の腰に押し付けていた。
それに気付いた金塚が逃げるように腰を引いたのだが、ソファーに寝かされ組み敷かれていれば大した逃げ場はない。
「…っ、おい…!」
「なんです?」
「それ…っ、押し付けるな!」
「は…?何…あぁ、これ?」
冴島は再び金塚の体にその部分を押し付ける。
「だからっ…」
「ずっと思ってたんすけど、紫さんって本当にバイセクシャルなの?」
「なんで、そんな事…」
「だったらちゃんと男とも恋愛してきたんすよね?」
「…だったらなんだって言うんだ…」
バイセクシャルである事は間違いないのだが、そもそも、恋愛というものに関して興味がある方ではない。相手が男でも女でも、ちゃんとした恋愛というものの経験自体が少なかった事が、金塚に曖昧な言葉を口走らせた。
それを分かっているのかいないのか、冴島はどちらともつかない表情で金塚を見下ろして、その目をジッと見つめて来た。
「そのくせ、なんでそんなに初っぽいんですか?昔の男とどう寝てたのかは知りたくもないですけど、どっちにしても今更恥ずかしがるような事はしてないつもりっすよ。単純に紫さんが初なだけとしか思えないんですけど、過去の男とはどうしてたんです?」
「どうしてたって…別に…何も…」
そう言いながら金塚は頬を染め、目を泳がせる。
「何もって…え、何も?」
「そうだよ、何も。バイセクシャルなら男とも当たり前に経験があると思ったのか?俺は自分の趣向を隠すタイプじゃなかったけど、他の人もそうとは限らないだろ。なんとなく、気持ちが通じ合っている人は過去にはいたよ。けど、一歩を踏み出すにはそれなりに勇気がいるもんなんだ。俺も相手も、過去にその一歩を踏み出した事はなかったよ。」
それはつまり、
「紫さんは…男と付き合った事ないの…?」
冴島が目を見張ってそう言うので、金塚は苦笑を浮かべて小さく頷いた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
140 / 143