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例えどんなに体が重くとも、言えない場所にひりつく痛みを感じようとも、やはり自分が当事者である案件を人に任せてしまう事は出来ない。
冴島には何度も家で待っているように勧められたが、それを振り切って久しぶりの我が家に帰って来た。
菊田が隣にいるかは分からないが、直接会う他に連絡の取りようもないので、不安はあるが真っ向から会いに行くしかない。
「さすがにちょっと緊張するな…」
「ですね。もし菊田さんがいてそのまま話せそうだったら困るんで行く前に親父を呼んでおきますね。」
「悪いな…」
「こういう時にこそ使うんすよ、ああいう怖い顔ってのは。」
確かに一見はカタギには見えないし、目力だけで何人かは殺せるんじゃないかというくらい眼光も鋭い。冴島からはそんな風格を感じないので、どうやら母親似のようだが、体格の良さは父親から引き継いだようで羨ましい。
金塚は圧倒的に母親似だ。
父親の遺伝子をどこに引き継いだのか、全くと言っていいほど似ていないので、一緒にいても家族だと思われる事はほとんどなかった。
逆に母親とはそっくりで、小さい頃ばかりは女の子に間違えられる事もたまにあった。
顔もそうだが、体の線が細いのも間違えられる原因だったので、昔から体格のいい人が羨ましかった。
かと言って、宏之ほどに顔まで厳つくはなりたくないが…
「連絡しときました。」
「場所は?分かるのか?」
「住所送っといたので大丈夫です。」
そう言っている間に冴島の携帯から通知音が鳴る。
携帯を確認した冴島が「もう返事が来た」というので、なんとなく一緒に携帯を覗き見ると、絵文字に富んだメールが送られてきていた。
「……」
「…まぁ、言いたい事は分かりますが。」
「期待を裏切らない両親で羨ましいよ」
「俺的には裏切ってもらいたいんですけど」
「無理だろ」
「でしょうね」
そんな事は誰よりも息子の冴島が分かっている。
「とりあえず親父さんが来るまで待ちだな…」
待っている間に少しでも気を落ち着かせようとコーヒーを淹れに金塚がキッチンに立った。
久しぶりに金塚が淹れるので冴島が喜んでいたのだが、同じ時にインターホンが来客を告げた。
こんなに音が大きかったかと疑うほど、心臓を震わせたその音に素早く反応したのは冴島だった。
「俺が見てきますよ」
「親父さん…なわけないよな」
「さすがに早過ぎますね」
だとすると、他に訪ねてきそうな相手が誰かなどたかが知れている。
冴島に行かせてもいいのだろうかと悩んで一度引き留めたが、やんわりと断られて玄関に行ってしまった。
もし菊田が来てしまったのなら、中へ呼ぶべきかも知れないが、宏之はまだ来ていないし、金塚の心の準備も出来ていない。
そもそもまともに話し合いに応じてくれるかも謎だ。急に怒って暴れでもして、冴島や宏之が怪我をしたらどう責任を取ったらいいのか。
今更になって菊田と話すという行為の危うさを思い知る。
出来ればまだ来て欲しくはないし、こっちのタイミングで行かせて欲しいが、玄関から戻ってきた冴島の顔の厳しさを見れば、来客が誰だったかは言われずとも分かってしまった。
「親父がまだ来てないからどうしようかと思ったんですけど、なんかあちらさんも話がしたいらしくて、どちらかの部屋かあるいはどこかファミレスとかの話せる場所に行くかって話になってるんですけど」
「え…それは…」
「俺は色々安全面を考えてファミレスかなと思いますけど、紫さんは家で待ってますか?」
「行く。俺だってちゃんと本人の口から聞きたいから。あの言葉の真意も何もかも…」
「俺は家で待っていた方がいいと思いますけど」
「やだっつったろ。当事者不在はないよ」
冴島は溜息を一つ吐いてから、玄関で待たせている菊田の元に戻って行った。
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