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座ったはいいものの、互いの間にまた重い沈黙が続く。
…何でこいつは何も喋らねーんだよ。
と思ったが、その重い空気はさっきよりは少し早めに、玖村の声で切り替わった。
「そういえば、まだちゃんと自己紹介もしてなかったよね」
「ちゃんとどころか、お前の口から名前すら聞いてない」
それでも俺がこいつの名前を半日で覚えたのは、それほど周りがこいつの名前を呼ぶからだ。
「名前は、玖村聖夜。君が発情期こじらせて休んでる間にここに越してきた、改めてよろしくね」
笑顔でそう言って、手を差し伸べられる。
きっと握手を求めてきてるんだろうけど、そんなものをする気はないし、振り払うわけでもなく、ただチラッとその手を見て、すぐにそっぽを向いた。
一瞬見えた、いっそ羨ましいほどきれいな手が、さっきまで俺のモノを触っていたのだと思うと、どうしようもない気持ちに駆られる。
「…名前は知ってる。俺が休んでる間に引っ越してきたのもわかる」
「あれ、発情期は否定しないんだ?」
「今更否定したところで何があるわけでもない。無意味なことはしない」
面倒なことは嫌いだ。
ムカついても、それで暴れて、俺に利益がないなら、そんなことしない。する意味がない。
「そ。じゃあ、君の名前、教えて?」
「知ってんだろーが。何でか下の名前まで」
さっき、耳元で囁かれたのを思い出しながら睨んで言うが、こいつには何の効果もない。
それどころか、さっきまでの笑顔とはまた違う、人を馬鹿にしたような笑顔を見せる。
「自分の名前も言えないの?さすがにそこまで馬鹿じゃないよねぇ?」
わざとらしく語尾を伸ばして顔を覗きこまれる。
明らかに馬鹿にされているのはわかるけど、なんだかもう、抵抗するのも怒るのも面倒で溜め息を一つ零す。
「藤代美影」
諦めたように、小声で言うと、玖村は満足そうに笑った。
「思ってたんだけど、綺麗な名前してるよね。ご両親のどちらが付けたの?」
「知らねー」
俺には知る由もない。
「頑なだなぁ」
そう言って、玖村はまた苦笑をこぼす。
別に、頑なとかそういうんじゃない。ただ本当に知らなくて、今ではそれを知る術も俺は持ち合わせていないだけだ。
「まぁいいや。次ね―…」
それからしばらく質問は続いた。
誕生日とか、好きな物とか。
全て淡々と答えていく。抵抗も何もせずに、俺の言える、知っている事実だけを話した。
が、途中で違和感を感じて玖村の言葉を遮る。
「じゃあ次は…」
「ちょっと待て」
「ん?」
なーに?と、笑顔で首を傾げ、綺麗な瞳で俺を見つめる。
一瞬、その瞳に引き込まれそうになるが、すぐに我にかえり、言おうとしていたことを言う。
「何で俺がお前の質問にばっか答えてんの、自分のこともちょっとは話したら?」
元々、他人と話すのも嫌いだし、ましてや自分のことをこんなに人に話すのは初めてだ。
淡々と答えてはいても、正直のところ大分緊張だってしてるし、俺のことだけべらべらと話すのは、明らかに不平等だろうと思う。
俺の発言に対し、こいつはニンマリと笑って言った。
「藤代くんはそんなに俺のこと知りたいんだ?」
「何寝ぼけたこと言ってんのか知らねーけど、俺はただ、自分のことばっか話すのはフェアじゃないって思っただけだ」
「んもう、素直じゃないなー」
笑顔で誤魔化そうとするその態度にイラっとして、口を開こうとした。
それをまた止められる。
今度は唇じゃなく、人差し指をムニッと俺の唇に押し付けて。
「…ホントは今すぐにでも俺のこと話したいけど、今はダメ」
「……なんで」
「きっとすぐ俺がわかる日がくる。それまで我慢して」
キレイな笑顔でそう言うと、パッと指を放す。
自分が何に対してムカついているのか、イライラは消えないまま、質問攻めは結局放課後まで続いた。
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