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一喜一憂①
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今日から家庭訪問が始まり、暫く午後の授業が無い。そのためか始業前の教室も大層浮ついている。
ただでさえ虫の居所が悪かった俺は、馬鹿な会話や耳障りな笑い声に苛々し通しだった。
「昨日どうだった?探してた本、見つかった?」
淳が控え目に尋ねてきた。
そうだ、本。俺は本を探すと嘘をついて、淳が女子共を取るか俺を取るか試そうとして…佐藤に邪魔されたのだ。
「あぁ。見つかった」
「そっか、よかったぁ」
ちっとも良くない。昨日は佐藤に訳の分からない説教をされる羽目になってしまったのだから。お前がすぐに俺を選ばないせいで――、
「……、」
……淳は俺が試していた事を知っていたのだろうか。俺の事を不快に思っただろうか。
「ねえ宰次。今日はお昼から何か用事ある?」
「……何だ」
「ふたりでゴハン食べない?」
「!?」
「授業は午前中で終わるけど、学食は四時までやってるらしいんだ。ほら、学食っていつも上級生が占拠してて一年生は入れる空気じゃないじゃん?今日ならいけるかなーって思って」
これはもしや……
「空いてる時はそこで勉強してもいいらしいし、喋りながら宿題でも済ませて行けば一石二鳥だなって……」
「お、俺を誘っているのか、お前、それは!?」
「くふふ……そうだけど、なにその大胆な倒置法」
うわ、わ、わ。落ち付け俺。
「昨日は宰次様にお力添え出来ませんでしたので、その埋め合わせと言う事でひとつ」
わざとらしい恭しさでおどける淳へのツッコミすら浮かばず、俺はにやけないよう「そうか」とそっけなく返すのが精一杯だった。
「おなかすいたー!何にしよっかな!」
初めての学食に上機嫌な淳。その後ろを追う俺も、我ながら浮足立っているのがよく分かる。
「(淳が俺を誘った……)」
「(ふたりで、と言った……)」
「宰次何してんの~?僕もう頼んじゃうからねー!」
「僕んち昨日もカレーだったんだけどさ、そういう時に限って出先でもカレーが食べたくなるんだよねー。宰次はそういうのない?」
淳が目の前でカレーライスをほおばりながら喋る。俺は肉うどんをすすりながら、淳の話に耳を傾けている。
「口に物を入れながら喋るな」といつもの俺なら言うのだろうが、目の前でイキイキと食事をする淳に不思議と目を奪われてしまって、小言など思いつきもしなかった。
「出先でカレーを食べたくなる癖に、自分ちで二連続カレーだとちょっとテンション下がっちゃうの。何だろうこの現象」
「……」
「こう、カレーはカレーなんだけど、他所のカレーは別物というかさぁ……、」
「……」
「……そうだ、宰次福神漬け食べて!僕コレ苦手だから、ハイどーぞ!」
「へっ、あ、オイコラ!!貴様何をする!!」
不意を突かれ、俺の肉うどんに福神漬けが投入された。付着していたカレールーが、漬け汁と共にスープへと広がっていく。
「お前最悪だな」
「胃袋に入れば一緒だよ、一緒!」
「そう言う問題じゃない!ったく……」
悪態をつきながらも満更ではなかった。何となく、淳のしょうもない言動に小言を言う役回りのような気がしているだけで。
出汁の香りを一気に消しさってしまう無慈悲な行為。いたずらにそんな真似をしでかす程、淳は俺に心を許して……、
……いや。こいつの事だ、誰にでもこうなのだろう。
「いっそカレーうどんにしちゃおう!」
「やめろ馬鹿、やめろ!おい!こら!!」
誰にでも、か……。
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