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ぐるぐる
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「宰次!いつまでお風呂に入ってるの!後がつかえてるのよ!」
ドアの向こうで困ったような母親の声が聞こえる。
それに応えず湯船に潜ると、ゴオオと地響きのような音が母の声をかき消した。
……最悪だ。最低だ。
淳に嫌われてしまった
……いや、嫌われて当然の事を自らやってしまった。考えずとも分かる事だったのに。
***
「他でもない宰次自身が心のどこかで『居丈高な自分は滑稽だ』って思っているんじゃないの?」
その淳の言葉は、俺に電流のような衝撃を走らせた。
小学校の頃からこれまでどんなクラスに居ても、どこかで誰かに嗤われているような気がしてならなかった。その事でひとりピリピリとして、周囲を遠ざけて一人になって。それでも不安は拭えなかった。
それもその筈だ。空回りしながら孤立して行く俺を、俺自身が嗤っていたのならば。
「あ、ああ……ああ……!」
長年ひとりで抱えてきた不安の正体が突如、思わぬ形で暴かれた。その予想だにしなかった正体にまず一つ大きなショックを受けた。
そしてもう一つ。
出会って一ヶ月の淳に、自分でも良く分からなかった心中をハッキリと言葉にして当てられた……それが何よりも大きなショックで、得体の知れないものに遭遇したような恐ろしさにあてられて。
このままでは淳に全てを見透かされてしまう
そんな恐怖に駆られるがままに、俺は淳の頬を思い切り平手ではたいたのだった。
「うるさい!!飼い犬の分際で知ったような口を利くんじゃない!」
バチンという大きな音と思った以上の手応えで、俺は我に返った。淳の眼鏡が飛んで行って、カシャンと小さな音を立てて落下した。その時の音がいやに耳に残っている。
「……」
じとりと見上げてきた淳の表情にギクリとするも後の祭り。
すかさず謝って取り繕えば幾分かマシになったかもしれない状況で、俺は更に最悪の選択をしてしまったのだ。
「お前が、お前が悪いんだぞ!生意気な事を言うから……!」
俺はあろうことか、居た堪れなくなって逃げ出すように学校を飛び出した。誰が聞いても幼稚だと呆れるような捨て台詞を吐きながら。
動揺のあまり俺は上履きのまま学校を飛び出していた。今更戻れず、そのまま電車に乗って家路に就く。道行く人や母親にも大層訝しまれたが、そんな事はもうどうでも良かった。
淳に嫌われた。
嫌われて当然の事を自らやってしまった。
それはもう色々、色々とやらかしたとは思うけれど、淳の許容力も相当だ。
俺ときたら、それを振り切って有り余るほどの狼藉をはたらいてしまったのだから始末に負えないのだ。
***
息苦しくなって湯船から顔を出す。一瞬だけ息を吸って、再び湯の中へと沈んだ。
自分への罰だなんてしおらしいものではない。
ただただ、苦しさで何も考えられなくなれば良いのにと思っての逃避だった。
ああ、今日の俺はひどく格好が悪かった。最低だ。
明日からどんな顔をすればいいんだ。
どんなに息苦しくなっても、思考はぐるぐると堂々巡りを繰り返し続けていた。
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