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仲直りをしよう①
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「……」
鏡を見れば目の下にくまが出来ていた。
体調が悪いような気が……しないでも、ない。いっそ学校を休んでしまおうか。
こんな気まずさは既に二度目。けれど佐藤の時とは比べ物にならない位に俺は及び腰だ。
淳に対して弱い者いじめをしたような罪悪感もあれば、全てを見透かす得体の知れない相手に楯ついてしまったような恐ろしさもあり、……そして何より、大事な友人を失うような振舞いをしてしまった後悔が俺を苛んでいる。
普段なら「昨日の今日で学校を休めば俺は尻尾を巻いて逃げた事になる」「そんな事はプライドが許さない」と思う所だ。けれどこの気まずさを先送りに出来るなら今は逃げてしまいたいと思ってしまう程だった。とにかく、どんな顔をして淳に会えば良いのか分からないのだ。
「宰次……あなた昨日、靴はどうしたの……?」
玄関でまごついていると、腫れものにさわるように母親が尋ねてきた。
「は、履き替え忘れただけだ!いちいち目ざといなっ!」
「あなた学校で何かあったんじゃないの……?最近ひどい怪我をしたり上履きで帰って来たり……様子が変よ。お母さん心配で……」
俺が苛められてるとでも言いたいのか!?冗談じゃないッ!
「学校、辛かったら休んでも…」
「いってきます!!」
ああクソッ!なんて安直な勘ぐりだ!誰が休むか馬鹿がっ!!
結局いつも通りに学校へ来てしまったが……
「……おはよ」
淳にいつもの笑顔は無かった。暗い声色でぽつりとそう言われ、俺も思わず「おう…」と歯切れの悪い声を小さく返した。挨拶が交せただけマシと言えばそうなのだが。
「……」
「…………」
き、気まずい。空気が重苦しい……。
いつも一番に馬鹿話をけしかけてくる筈の佐藤達も、ただならぬ空気を感じたのかとても大人しい。
チラリと淳の様子を窺えば、どんよりとした表情の淳とバッチリ目が合い慌てて顔を逸らした。重たい視線に胸がチクチク痛む。怒りながら責め問われる方がどれだけ気が楽だっただろう。
そ、そうだ。授業に集中すれば、その間はモヤモヤした気持ちに苛まれずにすむはずだ…授業が始まるまでの辛抱だ、授業が始まるまでの……
「宰次ごめん、教科書忘れちゃった。見せて」
「へあっ!?」
沈んだ声色のまま一気に詰められた距離。どっと緊張が高まる。
モヤモヤ?ビクビク?ドキドキ?どう表現したら良いか分からない気持ちがごちゃ混ぜだ。とにかく心臓に一気に負荷がかかったのは間違いない。
しどろもどろになっている俺に気付いてかどうかは知らないが、淳はピタリと肩を寄せて呟いた。
「今日の教科書、全部忘れてきちゃったんだ」
ほんとバカだよね、と自嘲気味に笑う淳。
……わざとだ。絶対にわざとだ。
淳をピヨピヨの馬鹿だと侮っていたが、昨日の一件で只者ではない事は分かっている。これはきっと淳の報復だ。俺をジワジワと責め苛もうとする策略に違いないのだ……!
「よろしくおねがいします」とフワフワ頭が上下する和やかさとは裏腹に、俺は蛇に睨まれた蛙のような心境だった。
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