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暴君
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「だからオレが乗るっつってんだろうが」
ふと耳に入った下品な声は芋瀬のものだ。何やら次の騎馬戦練習について教師と揉めている。
「お前らオレを乗せるよな?なぁ!?」
「あ……ハイ……」
「ほらな?」
芋瀬は騎馬役の三人を無理やり頷かせて教師にしたり顔を見せる。……自分が騎手になるとでも言っているのだろうか?あの縦にも横にもバカでかい図体で?
ピイイ――!
笛を合図に、Aクラスの陣地から巨大な影が立ちあがった。無論、芋瀬だ。
普通は騎馬役を気遣って小柄な生徒を騎手にする。その気遣いを無視した芋瀬騎馬は他に比べて格段に大きい。
「オラオラァ!ぶっ殺してやるぜぇ!!」
大きさはそのまま武器だ。有無を言わさない迫力に怖気づいて逃げようとする相手陣。芋瀬はそれを追い、襲いかかっていく。圧倒的な高さから、圧倒的な力で押し弾かれて、騎手は次々に落馬していった。
「あの野郎……帽子を取る気なんて更々ないってワケか」
足を引きずりながら陣地へ戻っていく騎手、巨体を担いで走り回らされる騎馬、下品な笑い声を上げる芋瀬。
「……」
芋瀬の暴挙を睨みつけるように見つめていると、バチリと目があった。一層きつく睨んでやると、芋瀬は騎馬に跨ったままゆらりとこちらへ近付いてくる。
「……よぉチビ。元気そうだな?」
「貴様ほどじゃ無いがな」
向こうでピイピイと遠い笛の音と「そこ、降りなさい戻ってきなさい」という引け腰な教師の声が聞こえる。
「カマ野郎は元気かよ?」
「……あ?」
「騎馬戦に出ないあたり、やっぱりキンタマついてねぇんだろうな、ブハハ!」
「てめぇ」
立ち上がりかけた俺の裾を淳が掴み、肩を佐藤が抑える。
「そっちの自称裏番にも借りがあったな。覚悟しとけよぶっ殺してやっから」
「……、」
佐藤は黙って口の端を上げる。不敵な笑みを返されて一瞬だけ芋瀬がたじろいだ。佐藤本人としては緊張で顔が引きつっただけ、というのは伏せておくとして。
「覚悟しておくのは貴様の方だ」
「調子乗ってんじゃねぇぞチビザル」
俺と睨みあった後、芋瀬は担任に促されてノソリと陣地へ戻って行った。奴が背を向けた瞬間、Dクラス全体が息をついたのが分かる。
「あんな風に言われるとさ……」
淳の真剣な声色が沈黙を破った。
「もしかして僕、本当におちんちん付いてないんじゃないかって不安になってきちゃうんだけど」
……は?
聞き間違いかと思ったが、クラス全員が戸惑いの表情を隠せずにいるのを見て間違いではないと確認する。確認できたので問おう、 何 を 言 っ て い る ん だ お 前 は 。
「ね、宰次ちょっと確認してくれない?見る?触る?」
「ばっ、何を言っているんだ貴様は!やめろっ!」
秘密の花園へ手を導かれかけて、俺は心底慌てて振り払う。混乱のまま淳の頭をひっぱたくと「あぁン痛いッ!」とわざとらしいオカマ口調が返って来る……そこでようやっと、妙な空気になっていたクラスの一部がクスリと息を漏らしたのだった。
こ、こいつはこいつなりに気を使っているん……だよな……?
「だめよじゅんじゅん!もっとグイグイ行かなきゃ!」
「そうよじゅんじゅん!触らせた勢いでこっちも触りに行かなきゃ!むしろ揉みしだかなくっちゃ!」
「いやぁ、グイグイいけるほど立派なモノじゃないからさァ~」
「……」
キャッキャと騒ぐ淳と藤吉下野へ雷を落としたのは言うまでも無い。
こんな時に堂々と腐るなんて、こいつもある意味暴君だと思った。
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