アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
アピール
-
日に日に盛り上がる宰次達を好ましく思っていなかった池田が、ある時ついに衝突を起こした。
「アーアー毎日朝っぱらから暑苦しいなオイ!一生懸命アピールでオレらに当て付けデスカー??」
「池田、落ち着いて……」
淳は池田を制止しながら教室を見まわした。
ムッとした表情を浮かべる級長達。池田と同意見らしい女子達はひそりと耳打ちをしあい、いつも遠巻きに宰次達を眺めていたギャラリーはそそくさと自分達の用事を始めている。
「一生懸命アピールじゃない」
宰次が一歩踏み出して教室に緊張が走った。
「……楽しいアピールだ!」
ドヤッ と効果音がしそうな程の不敵な笑みを浮かべて見せつけられ、場に居た全員が間を外されたように戸惑う。勿論淳も。
「池田、お前が居たら、もっと楽しくなる。一緒にやらないか」
「――ッ」
なんてキラーフレーズだろう。君がそんな言葉を口にするなんて。
淳は対峙する二人の脇でひそかに身を震わせていた。けれど池田にはそう響かなかったらしい。
「――オレが戦力になるからか」
「は……?」
「ふざけんなよ、お前らが欲しいのはオレの足!リレーの速さだけだ!」
「池田落ち付け、そんな事無……」
「そら誰だって楽しいわ、勝てるんならな! 勝利っつー麻薬の取り合いが楽しいなんて頭おかしい事なんだよ気付けよ!!」
「池田、」
「『一致団結して勝利を目指そう』みたいな浮かれた奴らが勝てなかったらどうするか分かるか?
一致団結して、今度は人のせいにすんだ。誰が手を抜いただの、誰がドジふんだだの……味方の居ない奴をやり玉にあげて、自分達は悪くないアピールはじめんだよ!そのキラッキラな思い出を守るためにな!」
シンとした教室。息を整えながら舌打ちをする池田。
「池田、お前…どうしたんだ……?」
宰次の問いに答えず教室から出て行こうと踵を返した時、池田はその尻肉を淳に鷲掴みされた。
「アラ、いいオシリ♡」
「ゲッ!てめぇ何しやがる!!」
手を引き剥がされた淳は、懲りもせず池田の頭を撫でてくる。
「池田。一限一緒にサボろっか」
潜めた声が池田の耳をくすぐった。
「宰次!池田と僕、体育見学するって職員室に言ってくるね」
グイグイと池田を引きずる淳。不安げに駆け寄ろうとする宰次をヒラヒラと手を振り制止する。
「大丈夫。ちょっとだけゆっくりさせて」
「あ……ああ」
教室に残された全員が、戸惑いの表情を隠せぬまま戸を見つめるほかなかった。
「林は池田と同小なんだろ?何があったか知らんのか?」
「ンー、お察しと言うか……オレが勝手に喋るのもねぇ。色々あったみたいよ、『瞬足の池田』も」
佐藤と林の会話を聞きながら、宰次は池田の言葉を何度も反芻する。
俺は何か間違えたのだろうか。
一体何が池田をああ言わせるのだろう。
淳は何を考えたのだろう。
これ以上何をしたら良いのか分からないまま、宰次は晴れない胸をざわつかせていた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
83 / 94