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勘違いと昼休み④
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「正直も何も、本当の事……」
煮え切らない態度に苛立ち、俺はぐっと淳に詰め寄ってその両腕を掴んだ。
「本当は池田たちが憎いんだろう。コソコソと後ろ指をさされながら友達ゴッコをするなんて、うんざりなんだろ?!」
「宰次、宰次。おちついて、なんのこと?」
「とぼけないでいい。現にお前は教室を離れるたび、嬉しそうにしているじゃないか。あいつらと距離を置けるから、清々しているんじゃないのか?!」
「ち、違うよ!そんな風に思ってるんじゃない……!」
俺の手を振り払おうともがく淳が気に入らず、掴んだ両腕にギュウと力を込める。「いたい」とか細い声がして、慌てて力を緩めた。
「嬉しかったから……」
ポツリと呟いて、淳は顔をあげた。
「宰次が誘ってくれるのが嬉しかったからだよ……!」
随分自分と縁遠い言葉が投げかけられ、俺は戸惑った。それはもう、瞬間湯沸かし器のようにカアっと恥ずかしさがこみ上げて来て、大きな声が出てきそうな程に。けれど続いた淳の言葉があまりに意味不明だったため、俺は何とか冷静なふりを出来た。
「宰次とふたりで色々話せるってだけでもテンションみなぎってくるのに、まして『宰次様』直々のお誘いって!それってデレじゃん!?萌えるじゃん!?たかぶるじゃん!!?」
「は……??」
「ひゃあ、何でもない!忘れて!」
殆ど何を言っているのか分からなかったが、どうやらはじめの一言で要約できそうだ。要は、二人で話せて嬉しい、と……。
淳は言いきった後に恥ずかしそうに両手で顔を隠している。恥ずかしがっている淳を見ているうちに、自分が何を言われたかじわじわと理解して、再びどっと照れくささが押し寄せてきた。
「ばっ、馬鹿、お前……!」
「なし、さっきのは一旦なし!落ち着いて!宰次落ち着いて!!」
「お、お前が落ち付け!」
とことん調子を狂わせてくる男だ。ムズムズと腰の落ち着けどころがわからず、俺は大きく胡坐をかいた。
「……僕にはダメな癖があって、その事で池田と佐藤には迷惑をかけたんだ」
暫くして、ポツリと淳が仕切り直した。
「だから、彼らはその時の事を冗談として、宰次に喋ったんだよ」
「冗談で人を悪く言うのか?俺には理解できないな」
「そうかなぁ……」
淳は少し照れくさそうに鼻先を掻いて続けた。
「あの三人は、嫌な思いをした事を冗談にしてくれているんだ。僕は、僕のダメな部分を冗談として扱ってもらえるくらい、彼らに許してもらっている。だから僕も安心して、以前と同じように彼らとお喋りをしていられるんだ。
……僕は彼らに感謝こそすれ、憎いとか、友達ゴッコだなんて考えた事もないんだよ。本当だよ」
「……」
こいつは……
こいつは何があっても幸せになれるのだろうな。俺と違って……。
俺は突然、よく分からない気持ちに襲われた。虚しいとか、寂しいだの悲しいだの、そういった類の気持ちだとは思う。
膝に顔を埋めてもごもごと喋る淳。ふわふわとした髪の毛が、後頭部だけぺしゃんこに潰れている。寝癖だ。隙だらけだな、などと関係のない事をわざと考える。
……あの頃の俺と同じだと思ったのに。いや、同じな筈なのに。
俺とこいつは一体何が違ったのだろう。俺には何が足りなかったのだろう。
足りない?俺が?
「……」
目の前で揺れる猫っ毛にニュッと手を差し入れると、「のわぁ」と間抜けな声がした。
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