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昼休みが終わる
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「とんだ茶番だ。邪魔者は俺の方だった、というわけか」
自分の勘違いを素直に喜べず、俺は肩をすくめながら自虐めいた事を口走った。我ながら鬱陶しい男だな、と苛立つ。それでも居た堪れなくて、何か言わずにはいられなかったのだ。
「明日からはあいつらと昼休みを楽しめよ。俺は消える。もうお前らの友情ゴッコの邪魔はしないさ」
あいつは俺の事を随分と好いているので、邪魔者とは思っていない筈だ。そう知っているからこそ、わざとこんな事を口走ってしまう。池田たち以上の待遇を受けたい、俺の気まずさを取り繕って欲しい、なんて我ながらうすら寒い気持ちが止められない。
クルリと背を向ければ、淳は必ず俺を追うだろう。「待って、そんなことないよ」の言葉を待ちわびながら、ゆっくり、ゆっくり去っていく。
「……」
反応が無い。俺はサッと血の気が引き、慌てて来た道を振りかえった。すると
「ウソ、すごい……構ってちゃん属性まである……!ウザカワ?やだ、宰次様ウザカワなの!?」
淳は大層興奮した様子で、ガリガリとノートに何かを書き殴っていた。
「おい……今何て言った」
「えっ、ななな何でもない!」
あいつめ……!あのノートに奴は一体何を書いているんだ。俺の悪口じゃあるまいな。
「うふふ、ふふ」
結局立ち去るタイミングを逃した俺の傍らで、淳は満面の笑みを浮かべている。おい、一応俺はお前の言葉をうけて機嫌を損ねている体なのだが。
「宰次、さっきのってもしかして、拗ねてたの~?」
俺の当初の予想とは真反対。不機嫌な俺に対し、淳はニコニコしながら俺の顔を覗き込んでくる。拗ねるだと?!そんな言葉を俺に使うな!まるで俺が幼稚なガキのようだろうが!
「なにがだ!!」
「キャー!こわ~い!」
「黙れ、殺すぞ!」
「ひぃぃ~、宰次様ご慈悲を、どうかぁ~」
「……ハァ」
ああ、くだらない。何故俺はこんな馬鹿の気を引こうとしたんだ。
俺は数分前の自分の行動をひどく馬鹿らしく感じていた。
「おい」
「なぁに?」
「構ってちゃん……あと、ウザカワって何だ」
教室までの長い道のりで、何気なく尋ねてみた。おおよそ意味の見当は付いているが……。訊かれた淳は、やはり嬉しそうにへにゃりと笑っている。
「宰次はさぁ、僕が池田たちを良く言うもんだから、自分より大事なんだと思って拗ねたでしょ」
図星でぐうの音も出ない。俺は無意識に眉間にしわを寄せ、下唇を突き出していた。
「前の会話から僕が宰次の事も同じくらい好きだって知ってて、…拗ねればご機嫌伺いにくるって分かってて、わざと投げやりなことを言って僕のリアクションを待ってた。これが『構ってちゃん』」
こうして言葉にされると思った以上に辛辣で、図星な分だけ深く刺さってくる。
「ふはっ……なるほど、そいつは鬱陶しい事この上無いな」
俺は笑った。淳の言葉に傷付かなかったわけではないが、一方で淳が俺を嫌っている訳ではないという不思議な安心感があった。だからこそ、手厳しい指摘も俺の中にストンと入ってきたのだった。こうして自分の駄目な部分を人と笑ったのは初めてではないだろうか。
まったく、淳は本当に思惑通りに動かない男だ。あんな肩すかしをくらうとは思いもよらなかった。……けれど、それがなければこうして自分を客観視して人と笑いあう事もずっとずっと先だったかもしれない。
「宰次さーん、おーい。まだ話が終わってないんですけどー!」
ふと呼ばれている事に気付いて、俺はあわてて淳を見やった。そうだそうだ、『ウザカワ』だったか?
もうどんな言葉だって受け入れる覚悟は出来ている。お前が『冗談にしてくれている』のだから、俺はそれを素直に聞いて、笑って、改めるだけだ。
正直、次はどんな辛辣な指摘が来るかと及び腰ではあるが……。
「もう『構ってちゃん』の意味は分かったよね。
……で、『そうやって素直に甘えられない不器用な所が可愛くて好き』って言う気持ちを表す言葉が『ウザカワ』なんだよ」
淳はそう言って、俺を見ながら目を細めた。
「~~~~ッ」
俺はこいつの掌の上で踊らされているのではないだろうか……。
そう思ってしまう程に淳の言葉は、笑顔は、俺の胸に沁みたのだった。
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