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月が綺麗ですね 4
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佳人は、顔をあげる。泣きそうになっている佳人の強い瞳に見つめられ、目を逸らしたくても僕は逸らせなかった。
「………俺はずっと、…翔太の事、幼なじみとして…みてないよ。……今もだ。みていない」
「………佳人、それは僕が悲しいよ。…ずっと僕は、佳人の事を大好きな幼なじみだと思ってみていたのに」
僕がそう言うと、佳人は僕の手首をギュッと掴む。佳人の手はとても冷たく、握られた手首から僕の体温は奪われていく。
「…翔太は、夏目漱石が好きだよね。…ねえ、翔太なら知っているはずだ。…夏目漱石が…、I LOVE YOUを……月が綺麗ですねって……言い換えた事…」
一瞬、強い風が吹き、窓は歪な汚い音をたて、僕と佳人の髪の毛は揺れる。
「……………っ」
図星を強くつかれた僕の身体は時が止まったかのように固まる。
息を吐きたくても、うまく吐けなかった。喉の奥を掴まれているかのような、そんな違和感が僕の喉元を支配する。
……バレていたんだ。本を読まない佳人に。…あの事が…夏目漱石が月が綺麗ですね、と言い換えたことがバレていた。
全てがバレていたという焦りから、手首を解こうとしている僕を無視して、佳人は僕の手首を離そうとはせず口を開く。
「……だから、俺は…翔太と同じことを思うって言っ…」
手首を解こうとしても無理だった僕は諦めて、感情を全て無くし、深呼吸をしてから口を開く。
「………僕達はいつか、誰かと結婚して子供を産んで、お父さんとお母さんに孫を見せる」
「…翔太?」
「そんな未来が僕達にあるのって良いよね。僕と佳人の子供は、また僕達と同じように幼なじみになると思う。そんな気がするよ」
「やめてよ、翔太…」
「どっちかの仕事が忙しかったりしたら、どっちかの家に自分の子供を預け合ったりす…っ」
佳人の言葉を無視して、僕は起こるはずだった未来を淡々と話していた。
そんな僕の胸に佳人は顔を隠し、佳人は僕の胸で身体を震わせて泣く。
気持ち悪いほどに無音な世界の中に、佳人の息苦しそうに泣いている声が聞こえる。
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