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はじまり(舞夜)
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公立高校の入試を終え、氷の張ったアスファルトの上を軽い足取りで歩く。どうせ不合格なのは分かっている。エスカレーター式で私立高校に進むのだと、そう決まっているはずなのに願書を出す時期になってから突然父親が「公立も受けてみろ」なんて言うから、仕方なく受験しただけだった。それでも緊張はしていたのか、肩の荷が降りたように晴れ晴れとした気持ちで帰宅した。
車が無いからどこか外出でもしているのだろうか。門を開けて数える程度の階段を上がり鍵を開けようと差し込むが、既に誰かいるようだ。親ではないはずだから、この時間なら弟か。半分だけ血の繋がった弟はあまり、好きではなかった。
「……ただいま」
脱いだ靴を揃えると、空き巣が入ったかのようにフローリングが汚れていた。
「は……?」
足跡を辿りリビングへ入る。そこは今朝までの明るい家ではなかった。外面だけは良い家だったはずなのに、その輝きさえも失っていた。
「何これ……あんたら誰?勝手に人んち上がり込んでんなよ」
「あぁ、お坊っちゃんのお帰りか」
振り向いた男は、床に落ちて割れたフォトフレームを革靴で踏みつけた。
「お前の親父さんになー、お金貸してやってたんだけど、とうとう潰れちまったみたいだな。なぁ、アイツの居場所知らね?」
潰れた?何が?……会社?
「しっかし、会社続けるために必死になりすぎだよなぁ。俺らの所みたいなのからも借金してよ。あぁ、こっちは生活費に使ったのか」
「そんなこと一言も……」
淡々と続ける男。もう一人の男は金目の物を探してか家中を漁っていた。
「でさ、親父さん何処にいんの?知らねぇか。知らねぇよなぁ」
「……出てけよ」
「あ?」
父親よりも背の高い男を見上げる。声は震えていないだろうか。きっと大丈夫。
「ここは俺の家だ。今すぐ出ていけ」
リビング中の引き出しを開けていた男が笑い始める。
「あっははは、お前、出てけって、はははっ」
「何が可笑しいんだよクソが!」
近づいて趣味の悪いネクタイを引っ掴んでやると、いとも簡単に床へ振り落とされた。
「っ…………」
「馬鹿、ガキに手出すなよ。大丈夫か?」
差し出された手に唾を吐き睨めつける。
「尖ってんなぁ、野々宮家の坊ちゃんは。お前、全額払えんの?無理だろ。住むところくらいやるから、明日までに荷物まとめとけ」
男達が出ていった後、糸が切れたように床に倒れた。何もしたくない。これが現実なのかどうかの確認すらもしたくない。
「あー…………」
日付を回っても誰かが帰ってくることは無かった。父は勿論、母も弟も、誰も帰ってこない。
そうだ、荷物をまとめなければ。昼までの威勢はまるで消えていて、黙々とキャリーケースへ最低限の荷物を詰め始めた。
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