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思い出にすらなれない(舞夜)
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今日は全く客が捕まらない。それもそのはず、完全に忘れていたがクリスマスイブだったのだ。雪がちらつく街中にはイルミネーションを見にやってきたカップルや親子で溢れている。道理で男も女からも連絡がないわけだ。面倒ごとは嫌いだから、基本的に欲求不満そうな既婚者をターゲットに動いていたから、メールがないのも当然である。大体クリスマスが明けて2、3日後、下手すると年明けまで相手が捕まらないのではないか。蓄えはまだあるが、先月よりも収入が減ってしまうことは避けたかった。
もう今日は諦めて帰ろうか。仲睦まじく手を繋いだり道端でキスをしたり、友人同士で楽しそうに記念撮影をする光景ばかり目に入れていると、普段は感じない寂しさが顔を出してくる。初めて過ごす1人のクリスマスにどうして1人なのか、どうしてプレゼントがないのかケーキがないのか、考えるだけで寂しくて、寂しくなってしまう自分が惨めで、もう金なんて無くてもいいから今日だけは誰かと過ごしたくなった。
出来るだけ人込みから外れた通りまで行こうと歩くが中々前に進まない。店の前でケーキを売るために必死なサンタ服を着た男と目が合う。
「ねぇお姉さん、一人なの?ケーキくらい食べない?割引してるからさ、ね?」
どこをどう見たら俺が女に見えたのか。髪の毛は短いはずなのに女扱いされるくらいなら、いっそ次は刈り上げて男らしくなってやろう。そう決意しながら男を無視した。
何が楽しくて笑顔を振りまいているのだろう。仕事だから笑顔を作っている、そんなことは分かっているのだが、イブに働いている男にすら馬鹿にされたようで胸の奥が傷んだ。馬鹿にされた腹いせでもしてやろうかと、足を止めて店へ引き返す。
「……それ、買うからアタシのお願い聞いてくれる?」
きっと相手はこっちの世界の人間じゃない。だけどこんな日に働いているくらいだから、彼女もいないはずだ。いい餌を見つけた。
客にするように上目遣いで男を見つめる。やはりまだ女だと思っているのか、先ほどと変わらない笑顔を向けられた。女のフリをしたままコイツを喰ってやろう。
「なになに?なんでも聞いちゃうよ。生クリームとチョコとチーズどれがいいですか~?」
「チョコレート。お兄さんこの後空いてる?ひとりじゃ食べきれないから、一緒に食べてくれない?」
古くて安いホテルくらいなら空いているだろう。俺の言葉の中にある意味を理解したのか、男は先ほどとは違って目元から笑ってみせた。
「あと10分もしたら上がれる。そこのコンビニで待ってて」
「ん、待ってる」
ケーキ代を支払い向かいにあるコンビニへと入った。店内の時計を見ると時刻は0時前。こんな時間まで仕事だなんて良くやるなと、かつて飲み屋でアルバイトをしていたことを思い出した。酔っ払いに絡まれ、セクハラを受け散々だった。
雑誌を立ち読みしながら待っていると間もなくして男がやってきた。接客中は人懐こい遊び人のような印象を受けたが、こうして見るとダークグレーのコートを着こなしマフラーを巻く男は、案外地味で硬派に感じられた。
だがこうやって誘いに乗ったということはそれなりに遊び慣れているか、よほど欲求不満かのどちらかだろう。男の手から革の手袋を外させ、指を絡め握った。外で働き続けた男の手は、硬く冷たかった。
ケーキを一通り食べ終え、談笑もそこそこに俺からベッドへ誘った。キスをするとチョコレートの甘い味が広がり、2人で笑いながら衣服を脱いだ。男は驚いた顔をしていが、適当に言いくるめ跨り腰を振った。
「は……いつもは金取ってんだけどさー、クリスマスだから特別な。おにーさん彼女いないっしょ、だからプレゼント」
俺は全く気持ちよくないのだが、男は興奮しているようで俺の平らな胸を弄りながら突き上げてくる。正直ケツの中が痛いし奥まで入るから苦痛は更に上乗せされた。
「あっ……おにーさん、きもちい、気持ちいよ……」
淫乱なメスのように高い声で喘ぐと男はまた悦んだ。萎えかけた自分の性器を握り、わざと見せつけるように手を動かす。俺の、唯一気持ちいいところ。
「俺、もうイっちゃいそ……出していい?いいよね?」
懇願するように手を握って見下ろすと繋がったまま乱暴にベッドへ倒された。あぁ、もう少しで終わるなと俺は理解し、下腹部に力を入れて締め付けてやる。男が限界に近づくにつれて女優が達する演技をするように声を上げ、自らも行き場のない種を吐き出した。
行為が終わった後、虚しさから逃げるように名前も知らない男の腕の中で眠りにつき、目が覚めると男は姿を消していた。テーブルにはホテル代と行為への代金が少しばかり置かれている。プレゼントと言ったのに対価を支払われたことが、思い出として留める気もなく金で全てを清算し消されてしまったように感じられ、裸のままみっともなく泣きじゃくった。
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