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「あなた程高貴なお方が私のような不等者に何用でございましょうか?」
「舞え。」
「今、この場で?」
「そうだ。先程広場で踊っていただろう?あの舞いだ」
アルベルトが自分にそう命令する事は聞かずとも分かっていた。
だがエリスは目を細めて微笑むばかりでなかなか首を縦に振ろうとはしない。
「それは身に余る光栄…。ですが、歌も音楽も無いこの状況で踊れと?第一あの舞いにはナイフが必要です」
エリスが"ナイフ"の言葉を口にした途端、兵士達が殺気立ち場の空気が緊迫したものへと変わる。
王子は気まぐれにも見ず知らずの放浪者に刃を持たせるのだろうか。
そう兵士達が固唾を呑むと、アルベルトはスッと立ち上がってエリスに数歩近付いた。
「変わりにこれを使え。十分だろ」
「っ…!」
アルベルトは自分の腰に巻いていた布を解き、ふわりとエリスに投げる。
それを受け取ったエリスは柔らかく肌触りの良い上質な布を指の腹で撫で、やがて自分の肩に掛けた。
「では……アルベルト様の為だけに踊りましょう」
エリスは瞼を閉じ、ゆっくり呼吸を繰り返す。
すると頭の中に流れてくるのは共に旅をしたあのキャラバンの歌と音楽。
彼はそのリズムに合わせて足首の鈴をシャランッと鳴らし床を蹴った。
「…!!」
アルベルトの腰布をひらりと靡かせる様はまるで蝶の羽根のよう…。
女には無い大きく大胆な動きと指先にまでこだわる繊細で優雅なしなり。
エリスの流す目線は彼を捕らえて離さず、アルベルトもまた、一瞬たりとも目を逸らせない。
「なんて美しいんだ……」
兵士の誰かが無意識にそう洩らす。
それは観ている者全てが同様に感じている事だ。
ある者は魅惑に溜め息し、またある者は瞬きすら忘れる。
そうして鈴の音が響くひと時はあっという間に過ぎ、踊り終えたエリスが一礼するも誰一人動こうとする者はいなかった。
その様子にエリスは満足そうに口端を上げる。
「────見事だ」
夢見心地だった兵士達はその主君の声にはっと我に返った。
そんな彼らをアルベルトは鼻で笑い、一歩ずつエリスに近付く。
エリスは借りた腰布を返そうと彼に差し出したが、彼はその腕を掴みグイッと強引に唇を引き寄せた。
「ンっ──!んぅ……ッ、はッ…」
「お前を飼おう。部屋を用意する」
唇が離れたと思えばたったそれだけの短い言葉を残し、彼は背を向けてこの部屋を出て行った。
それはあまりに唐突で兵士達のざわめきの中、エリスはただ呆然と彼の姿を見送るばかり。
(反応は良かったはず…。でもその割にはあまりに淡白だ。まさかオレの舞いが物足りなかった…?)
満足な出来栄えだったにも関わらず想像に満たないアルベルトの様子にエリスは困惑し、頭を悩ませた。
それは迎えに来た召使に案内された部屋へ一人ポツンと置き去りにされた後も続く。
(でも一先ずはこれでいい。オレを飼うということは少なからず気に入ったんだろ。あとは……)
「…………いつ、来るんだろう…」
一人には広すぎる部屋の中を念入りに調べ終え、エリスはベッドへ倒れ込みポツリと呟いた。
どんなに用心深い男でもベッドの上では隙が出来る事を彼は良く知っている。
だが、その時を今か今かと待ちわびるも太陽が沈み、辺りが暗くなってもアルベルトは姿を現さなかった。
そうしている内にとうとう維持していた緊張の糸は切れ、サラサラと気持ちいいサテンのシーツも手伝って徐々に彼の視界が狭まっていく。
随分と傾いた月は、そんなエリス見守るように柔らかい光で彼の頬をそっと撫でていた。
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