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「────エリス様。おはようございます、エリス様」
コンコンッと何度もノックする音を朦朧とする意識の中で聴き、エリスははっと飛び起きた。
辺りを見回せば陽はすっかり登り部屋の中が明るい。
そしてもちろん、アルベルトの姿はどこにも無かった。
「おはようございます…、あなたは…?」
「お初にお目にかかります。私はアルベルト様の直属の部下、エドリオと申します。以後お見知り置きを」
丁寧な言葉遣いに控えめな態度。
そして綺麗に微笑むエドリオの印象は悪いものではない。
だが逆にエリスはその態度に警戒心を強めた。
「まずは湯浴みをして頂き、こちらのお召物にお着替え下さい。その間にお食事の準備をさせますがお好みの物は?」
「特には…。それよりアルベルト様にお会いしたいのですが」
「申し訳ありませんがそれは叶いません。皇子は議会の真っ最中でございまして…、代わりに私が宮殿内を案内しろとのご命令を授かりました。さぁ、こちらへ。湯殿へお連れ致します」
「……はい」
早ければ昨晩で全て事が済む予定だった。
それなのに湯殿へ連れてこられたエリスは今、数人の女を従えて豪華絢爛な浴室でのんびりと湯に浸かっている。
まさか自分がそんな扱いを受けるとは想像もしておらず、エリスは自分自身を嘲笑った。
「皮肉なものだな…」
自分は遊びに来たわけじゃない。
沸々とそんな不満が湧き始めた頃、控えの者が数名彼に近づいた。
「エリス様、お体を浄めさせて頂きます」
「!いえ、自分でやりますから」
「それはなりません。これが私共の与えられた役目にございます」
女のその言葉はエリスを苛つかせた。
とんでもない茶番だ。
自分は豪華な住まいも贅沢な暮らしも望んでいるわけではない。
自分はこの女と同じ。ただやるべき事をやるだけ。
そう分かっていてもエリスは女の行動をどうしても受け入れられなかった。
「オレに……っ触るな!!」
「っ、エリス様…!?」
伸びてきた女の手を払い除け、慌てふためく女達に構わずエリスは湯殿を後にした。
ろくに拭いていないせいで布地は肌に張り付き、そんな姿で彷徨く彼とすれ違った者は皆振り返り頬を染めるが、エリスお構い無しに足を進める。
すれ違った者は、そんな見知らぬ青年の姿に何者かと疑問に思う事すら忘れ、しばし見とれていた。
今の彼は、それ程までに妖艶な色香を放っている。
(まずはアルベルトの部屋の場所を調べないと…。本人を探すのはその後だな)
数人の目が気になったエリスは、できるだけ人目に付かない様慎重に足を進め、長い廊下をいくつも渡る。
そうしている内に建物の中でふと拓けた場所へ差し掛かり、エリスは思わず瞳を大きく開いた。
「噴水だ……」
例えるなら砂漠の中に見つけた小さなオアシスだった。
周りには手入れの行き届いた植物が植えられ、太陽が降り注ぐよう上手く設計されている。
そして緑に囲まれて位置する噴水の湧き水は陽の光を浴びてキラキラと水しぶきを上げ、中央に置かれた女神像の神々しさを増していた。
エリスは吸い寄せられるようにそこへ足を踏み入れ、噴水の前で立ち止まり女神像を眩しそうに見上げる。
この女神は今まで見たどこの物よりも美しく優しい顔立ちで、まるでエリス自身を見守っているかのような錯覚すら覚え、息を飲んだ。
「エリス?」
「っ──!!」
あまりの美しさに目を奪われていた彼は突然背後からかけられた声にビクッと肩を揺らし、ゆっくりその人物を振り返る。
「アルベルトっ…様」
「なぜお前がここにいる。一人か?」
彼の厳しい表情からその胸中は安易に汲み取れる。
エリスに疑念を感じているのだ。
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