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「!?ロマじゃない…?」
「はい。彼らを仕切る者に尋ねたのですが、"エリス"という名の者は存在しないそうです。そこで彼が共に旅をしていた一行を捕らえましたが、彼とは一年程前に知り合い、"キャラバンに加えてくれ"と頼まれたので共にいたとの事でした。それ以前の事は何も知らない様です」
(なんだろう…。雰囲気が変わった?)
エリスは踊りながら、表情を硬くして話す二人に怪訝な視線を送る。
何かあったという事は簡単に理解できたが、それが何なのかまでは可能性がありすぎて想像がつかない。
「それで傘下の国全てに使いを送り調べさせましたが、彼らしき人物の特定には至らなかったとの報告を受けました」
「…………偽名か」
「はい、恐らく。もしくは……」
「────東の人間」
やがて音楽が止み、踊り終えたエリスが二人の様子を窺っているとアルベルトは話すのを止めて綺麗な笑みをエリスに向けた。
それを見たエリスは喉元を掴まれたように一瞬息を詰まらせる。
アルベルトから向けられたその笑みは背筋が凍りつくように冷たくて残酷、そして恐ろし程の美しさだった。
「……見事だ」
「っ、恐れ多きお言葉」
「そんな謙遜はするな。お前の舞いは見る者全てを魅了し心を奪う。……なぁ、そうだろう?現にこの俺だってそうだ」
ゆっくり歩み寄る彼には何か確信をえている。
アルベルトの不穏な空気を感じ取った演奏者達は急いで部屋を出て行き、広く豪華な部屋はたった三人だけとなった。
きっと演奏者達は何度も見ているのだろう。
だからこそこれから起こる事の予想が付き、即座に退室をした。
「アルベルト、様…。いかがされたのですか?私の踊りが気に入らなかったのでしょうか?」
「…いいや。先程も行った通り"見事だった"。本当に…」
「っ──!!何を…っ!?」
「褒美としてお前に面白い物を見せてやる。付いて来い」
アルベルトに掴まれた右腕の骨がギシッと嫌な音を立てて軋み、エリスは苦痛に顔を歪めた。
「っ──、一体どこへ…っ」
エリスの腕を掴んだまま部屋を出たアルベルトは無言で階段を下り、彼を引き摺らんばかりの勇み足で長い廊下を歩いて宮殿の敷地内の奥深くまで来ていた。
「ここはっ…!?」
そしてエリスの前に現れたのは錠が掛けられた鉄格子の扉。
その先には地下へ降りる薄暗い階段があり、奥には永久に続きそうな闇が広がっている。
「どうした、怖いのか?」
「……いえ」
怖くはない。だが昔に受けた傷跡が脳裏を渦巻き、エリスの足元に巻き付いて動きを鈍らせた。
……怖くはない。思い出したくないだけだ。
一歩ずつ自らの足で降りているのは恐らく死へ繋がる階段だろう。
この先で待ち受けているものがあまりにも呆気なく目に浮かび、エリスはそんな自分に静かな溜め息を吐いた。
「ここは王族に対して罪を犯した者を収容する牢屋だ。先日処罰を下して生憎もぬけの殻だが…見るのは初めてか?」
「ええ…もちろんです」
冷たく沈んだ空間に二人の足音がおぞましく響き渡る。
その音はエリスの心を固く閉ざさせるものだった。
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