アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
2
-
何か重大な事柄でもあるのだろうか?
昼食を早めに済ませたエリスは廊下ですれ違う見慣れない役人達に軽く会釈をしながらそんな事を思い浮かべる。
役人達の纏わり付く視線を不快に思いつつも探りを入れるべく、彼は宮殿内にある噴水に腰を下ろしてわざと隙を作った。
「これはまるで天から舞い降りたように見紛う美しさ…。お前ほど美麗な男がこの宮殿にいるとは…」
それにまんまと掛かったのは、いかにも下心が丸出しといった態度で近付く中年の男だった。
こういう男はおだてればすぐ調子に乗る。
「いえ、私なんて……。あなたのような聡明なお方に声を掛けて頂いた事すらおこがましいです」
エリスは目元を赤らめて視線を泳がせ、控えめな態度でそう返す。
聞きたい言葉を相手の口から言わせるにはどんな言葉を投げかければいいのか。
エリスにとってそのやり取りはごく簡単なものだった。
「────領域の拡大?」
「ああ。前線を押し上げて西に圧力をかけるのだ。ずっと機会を窺っていたが、今なら奴らも隙を見せている。これを逃す手はあるまい?」
エリスが少し煽っただけでその男はこの国の王にでもなったかのように得意げな態度を見せ、易々と口を割って次から次へと喋り始めた。
(その手立てを考える作戦会議ってとこか…。だったらしばらくはアルの警護が厳しくなりそうだな)
ただでさえ周りに人を従えている彼だが、それが益々度を増しそうだ。
押し黙ったエリスは今後の対処について考えていたが、足元から舐めるような厭らしい男の視線が絡みつき不快感で鳥肌が立つ。
「そんな事より…お前はここの召使いか?どうだ、わしの元へ来る気はないか?」
「…!そんな、私の様な者があなたの元へなど…」
「恥ずかしがる事はない。お前も鼻からそのつもりだったのだろう?」
「いえ、あの…っ」
「──そこで何をしている」
男がエリスに迫った時、怒りを滲ませた冷たい声が二人を背後から襲う。
彼らが振り返ると、鋭く尖った眼差しは男にではなくエリスに向けられていた。
「これはアルベルト皇子!ちょうど良かった。この召使いめをわしに譲っては下さらぬか?代わりの者に手土産をお付けしてすぐ寄こしますゆえ」
「"召使い"!?…なるほどな」
アルベルトはニヤリと冷ややかな笑みを浮かべ、エリスを見据える。
彼は今何を思っている?詮索した事が見破られたのか?
悪い予感を脳裏に過ぎらせエリスは表情を曇らせた。
「お前には過ぎた相手だ。失せろ」
「!?」
「いやいや、例え身分が低くともわしはこの男が──」
「こいつに言ったんじゃない。お前に言ったんだ、薄汚い下衆が」
「……は?」
男はアルベルトの吐き捨てた言い方に目を丸くして動きを止める。
エリスの予感は意外にも良い意味で裏切られたが、それは彼を大いに混乱させた。
「皇子…今なんと?」
「ハァ…これだから頭の弱い役人共の相手は嫌なんだよ。…こいつは俺のものだ。お前に与えるくらいなら俺がこの手で始末する……お解りで?」
「っ、何たる侮辱…!!失礼する!!」
「あぁ、あぁ、さっさと失せろ」
煩い虫でも払うようにアルベルトは手をひらつかせ、改めてエリスを向き直る。
その目にはまだ怒りが残っているものの、彼に憎悪を抱いているものではない。
「あいつに肩を触らせていたな?」
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
25 / 79