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パタパタと慌しく緊迫した足音がいくつも廊下を渡る。
その者達の表情は皆一様に焦りと困惑が滲み出ていた。
「失礼します!」
「居たか?」
「いえ、本日はまだ湯殿には来られていないと…」
「中庭を捜索致しましたがお姿は見当たりませんでした。」
「東の塔へもお見えになってはいないそうです…!」
「…そうか。あいつの消息が分かるまで探し続けろ」
近頃は比較的大人しくなっていた獣が、再び爪をちら付かせる。
誰も口には出さなかったが、そんな殺伐とした雰囲気を身に纏うアルベルトはエリスと出逢う以前の彼に戻りつつあった。
今やそんな彼に臆する事なく接せられるのはエドリオくらいのものだ。
「逃げたという事でしょうね」
「"逃げた"…だと?」
主のいないエリスの部屋にはアルベルトとエドリオの二人だけが残っている。
エドリオはその部屋の窓から見える街を遠く見下ろし、苛立ったアルベルトの声を鼻で笑った。
「そう考えるのが妥当では?彼は何一つ告げず、誰にも見られないよう姿を眩ませた。そして私が調べさせた限り、彼と最後に話したのはあなたです。彼が逃げた要因に何かお心当たりはございませんか?」
エドリオにそう問われ、アルベルトはエリスと最後に交わした言葉を思い出しハッと顔を上げる。
「"首を刎ねるかもしれない"と言った」
「!なぜわざわざそのような事を?それでは逃げ出したくもなって当然です」
「……腹が立ったんだ。だいたいあいつは、俺のものだという自覚が無さ過ぎる」
「だからと言って言い方というものがあるでしょう…。まぁ何にせよ、結果的にこうなったのは良かったのかもしれません。近頃のあなたは随分と彼にご執心でしたから」
呆れた物言いの後。
エドリオは彼がいなくなった状況に安堵の笑みを浮かべたが、アルベルトはその反応を不服そうに睨み返す。
エリスが来てからというもの、確かにアルベルトは彼を前提とした考えや行動が日に日に増している事に自らも気付いていた。
ならばこれを機に手放して以前のような日常を取り戻すのが正解だろう。
しかし心のどこかでは"あいつが逃げるはずなどない"という確信にも似た想いが居座っている。
「仮にだ。…逃げていないとすれば?」
「はい…?」
「例えば、何らかの事情があって姿を現せないのだとしたら───」
「皇子…!まさか探すおつもりで!?」
「…………」
一体何がしたい?自分はエリスに何を求めている?
自問自答を繰り返し何度も出かかる言葉が喉を詰まらせ息苦しさすら覚えた。
たまたま目に止まり拾っただけの青年だ。そんな存在にこだわる理由も価値はない。だが……。
「エリスの過去の件はどうなっている?調べは付いたか?」
「……はい。遣いの者が確認した限り、エリスは白とは言い難い。育ての親にあたるエルダという男は、彼らが暮らしていた国の宮廷役人だそうです。しかし、反王政側との疑いを掛けられ王宮側に処分されております」
「!?その証拠は出たのか?」
「いえ。自宅にいる所を尋問する間もなく殺したそうです。恐らくエリス様はその場に居合わせたのかと」
「あの王らしいな……」
エリスを手放さなければならない明確な理由が見つからない。
アルベルトは何度も自分の説得を試みるが、そのたびに諦め切れない気持ちが大きさを増して膨れ上がる。
そして1つの決断を口にした。
「────エリスを探す。この城に出入りした者全てを割り出せ」
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