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「──では私はこれで。二、三日は必ずご静養なさって下さい。身体が衰弱しきっておりますので」
「はい」
人間が感じる時間感覚というものは実にいい加減だ。
エリスはてっきり翌日だと思っていたこの日を、戻る道中アルベルトに確かめると、攫われてから今日で丸三日目だと聞かされ唖然とした。
そして宮殿へ着いた途端。
馬に乗った二人を出迎えたのは、無事を安堵する声ではなく怒りを滲ませたエドリオの笑顔だった。
エリスの居場所が分かった途端、城を飛び出したアルベルトのフォローをする為エドリオは四方に手を回していた。
仮にその場所が自国なら必要なかったものの、隣国とあらば話は別だ。
「全く……。あなたは私を過労死させるおつもりですか!?」
「慣れてるだろ?」
幸い目立った外傷の無かったエリスは湯浴みで身体を綺麗にした後、部屋に戻って医者の治療を受けた。
その彼が横になるベッドの脇でアルベルトとエドリオが言い合いをしている。
だがこれはもう見慣れた光景だったせいか、エリスはさほど心配もせず二人のやり取りを横目で交差していた。
「少しは反省なさって下さい!こんな事ではいつまで経っても王位継承など──」
「大切なものを奪われても黙って様子を見ていろだと?そんなものが王位なら俺は御免だ。他の者にくれてやる」
「っ!」
「皇子…!!」
アルベルトはエドリオの言葉を他人事のように捉え、ベッドに腰かけてエリスの髪を指で梳かし始めた。
そんな彼の表情は穏やかでどこか清々しい。
決して冗談で言っている訳ではない。
彼のその本気の様はエリスを見つめる真っ直ぐな瞳から安易に汲み取れた。
「……。今のは聞かなかった事にしておきます。エリス様も今夜はもう休まれた方がよろしいでしょう。……皇子、あなたにはまだやって頂かなくてはならない事が。」
「俺はここにいる」
「いい加減になさって下さい!」
とうとう本格的に怒り出したエドリオからは笑みが消えていた。
恐らく彼は本気で怒っている。
そんな二人の雰囲気に耐えかね、様子を見ていたエリスだったがさすがに横から口を挟んだ。
「アルベルト様…っ、どうかお部屋へお戻り下さい」
先程から髪を梳かす彼の指先がエリスの敏感な所を擽られ何とも言えない気分だ。
それは彼自身も知らない胸の奥にある柔らかい部分に触れられているような感じで心臓がうるさい。
「お前の頼みは聞いてやりたい。だがそれだけはどうしても無理だ。しばらくはお前から離れられる気がしない」
「っ……」
距離を縮めようとすれば警戒し、こちらが離れようとすれば簡単に擦り寄ってくる。
"なんだか気まぐれな猫みたいだ"
傲慢で獰猛な獣だと思っていたアルベルトのイメージが崩れ、エリスは戸惑いを隠せず顔を赤くしてそっぽを向いた。
「…………今夜だけです。明日からはちゃんと職務を果たして頂きますから」
「あぁ」
結局折れたのはエドリオの方だった。
アルベルトの一度言い出したら聞かない性格は彼が一番よく分かっている。
「……本当に良かったのですか?きっと明日は大変ですよ」
「そうだろうな…、だがどうしようもない。今はお前といたいんだ」
「!……どうして」
「…?」
「どうして……私などを助けに来られたんですか。代わりなどいくらでもいるのに…」
二人きりになった部屋はやけにしん静まり返って胸がそわそわと落ち着かない。
そんな気分を初めて味わったエリスは想定外の言葉を口走っていた。
自分は何が聞きたい?何を知りたい?
エリスはその理由から目を逸らすように身体の向きを変えてアルベルトに背を向けた。
「お前は一人しかいないのに代わりなんてどこにいる?こっちを向け。俺を見ろ」
「っ!アルベルト、様…」
エリスの背中を抱き寄せたアルベルトはその頬にねだるようなキスをする。
控えめに軽く、それでいて甘い。
(なんだろう…この感じ。こんなの知らない…)
背中に伝わるアルベルトの心音が心地良い。温もりが落ち着く。そして…もっと彼の唇に触れて欲しい────。
「っ……ふ、アル……っん…」
エリスが少し振り返るとアルベルトはすぐに彼の唇を奪った。
だが決して強引ではない。
互いに相手を想い、求めるキスは性的なものではなく確かめるものだ。
ここにいる。その無二の存在はちゃんと自分の腕の中にある。
重なる唇がそれを証明し、柔らかく絡んで唾液を交換する舌はやがて銀色の糸を引いて名残惜しそうに離れた。
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