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瞼をすり抜けて沁み入るような朝日に目を開ければ、そこに色褪せた日常は無かった。
目にする物全てが鮮明で色濃く、霧が晴れたような眩しい世界に彼は何度も瞬き確かめる。
「もう起きたのか」
「っ!?そう言うあなたこそいつからっ……」
穏やかに包み込むアルベルトの優しい視線を受け、言葉を途中で詰まらせたエリスは自分の目元が赤くなっていくのを感じた。
何かが違う。自分もアルベルトも、昨日と比べて明らかに何かが変わった。
それが一体何なのかエリスが思いつく前にアルベルトは眉を寄せた彼に不意打ちのキスをする。
「っ!?突然なんですかアルベルト様…!」
「ん?お前また敬語に戻ったな。昨夜はあんなにそそる声で"アル"って呼んでたのに」
「っ~~!!」
「ははっ!そう怒るな。これからは俺に敬語を使う必要はない、普通に話せ」
「!もう…起きられるのですか?」
予告なく解かれた腕にエリスは何気なくそんな質問を口にして違和感を感じた。
これではまるで寂しがっているみたいじゃないか。
だがアルベルトはその言葉の裏を追求する事なく、別の所が引っかかりしかめっ面になる。
「敬語。」
「!……もう、起きるの?」
「ああ。今日は昨夜サボった分の仕事もあるからな。切り詰めても夜更けまで掛かるだろう」
「そう……」
振り返る事無く淡々と答えながら服を着るアルベルトに物足りなさを感じてエリスは俯いた。
本来男の性とはそういうものだ。
欲望さえ満たせば後に残るのは煩わしさだけであって、それ以外の何物でもない。
もちろんエリスにしてもそうなのだが、なぜかこの時は真逆の心境で胸がちくちくと痛んだ。
その痛みが何なのかも分からず持て余していると、頭にポンッと置かれた手があまりにも簡単にそれを拭い去った。
「お前は部屋から出るなよ?特に、何があっても一人では行動するな。部屋の外に召使いを二人用意しておくから何でも言いつけろ。それから食事もちゃんと摂れ。お前は元々食が細い。後は──」
「わ、分かったよ!もう分かったから…」
「…そうか?じゃあな」
怒涛の言い聞かせの腰を折られたアルベルトは少し不服そうにエリスの髪を一撫でしてドアの方へ向かった。
その表情がおかしくて彼にクスッと笑みを溢せばその背中が不意にエリスを振り返り、今度は真剣な目がしっかりと見据える。
「──どこへも行くなよ」
「…!!」
アルベルトが言ったのは今日の事だろうか?それともこの先ずっと──。
「……うん。必ずここであなたを待ってる」
エリスは柔らかい笑みでそう答えるとアルベルトは安心したのか笑顔を返し今度こそ部屋を後にした。
本当の彼の心にも気付かずに……。
「……後はタイミングだけ」
独りそう呟いたエリスは軋む身体でベッドを下り、持ってきた荷物の袋を探る。
そして目当ての物を見つけると袋から取り出した。
──お前にこれをやろう──
殺される数日前。エルドから譲り受けたこのナイフが奇しくも彼の形見になってしまった。
エリスはそれを大切に扱い、彼との誓いを思い出し改めて誓う時にはいつも鞘から刀を抜いて額に当てる。
彼はエリスに実の息子のように接し、初めて人間らしく扱ってくれた人物でもあった。
エルダはエリスにとってただの育ての親ではなく、生きる上で目標にする恩師のような存在。
そんな彼の最後の言葉に報いる事こそがエリスに唯一残された恩返しだ。
何かが突き刺さり痛む胸をそっと手で押さえ、エリスは少し頭を垂れてナイフの刀身に額を付け誓いの言葉を紡ぐ。
これはエリスの生きる理由────。
「──必ず、彼を殺します。」
To the next story…
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