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「なッ……んで…」
唇の隙間から辛うじて漏れたエリスの疑問にクスッと笑みを漏らし、アルベルトは感情に揺れる翡翠色の瞳を奥深く覗き込む。
「俺はお前を知った気でいた。だが本当は何にも解っちゃいなかった。お前が腹の中で抱えていた苦悩も葛藤も、何にも見えてなかった」
「そ、んなの……当たり前だよ?隠してたんだから」
「そうだな。だからこそ俺は、試されていたのかもしれない」
「…?」
彼は何を思ったのか。
悟ったように何かを納得するアルベルトを前に、今度はエリスが戸惑う番だ。
瞬き繰り返す事しかできないエリスだったが、まるでそんな彼を庇うようにアルベルトの両腕がふわりと包み込む。
そしてエリスを強く見つめる緋色の瞳からはもう戸惑いも躊躇も見られず、彼からは一切の迷いが消えていた。
「俺の命を狙うなら狙い続ければいい。それがお前の望みなら、誰よりも一番近くでチャンスを窺え。何度でも……その度に捩じ伏せ、抱いてやる」
「!アルベルト…」
エリスはアルベルトに自らの命を差し出し、全てを彼に捧げる決断をした。
しかしアルベルトの決断は、その一つ上を行くものだった。
「っ、何を仰られているのですか!?今すぐその族(やから)をこちらへ!」
「来るなエドリオ。こいつは誰にも渡さん」
「ッ!?」
数歩歩み寄ったエドリオを静止させ、アルベルトは彼に強い口調で告げる。
「粛清はしない。エリスはこれまで通り俺の側に置く」
「なッ…!お気は確かですか…!?そんな質の悪いご冗談を…」
「冗談なものか。"横暴で自堕落"?大いに結構。それが俺だ。だからこそこれまで通り思うようにやる。代わりに、必ず俺の手でこのローマを統一させてみせる。その働きの見返りがエリスだ、文句はあるまい」
「あなたは…、本気でその様な事を…?」
「無論。俺は一度決めた事は必ず成し遂げる。その事はお前が1番よく分かっているはずだ」
「何故……」
「エド…?」
「あなたは……変わってしまわれた」
「そう感じるのは、お前が変わっていないからだ。人は変わる。良くも悪くも、変化を求める生き物だからな。だが全てが変わった訳じゃない」
「あなたは……私の全てだった」
「……?」
様子がおかしい。
強い口調から次第にうわ言のように変化したエドリオに、2人はほぼ同時に異変を感じた。
「この宮殿で奉仕する事になった日…。幼いアルベルト様を初めて目にした時から、あなたこそが王に相応しいと直感しました。そして、この身をあなたに捧げようと…あなたの為なら何でもした…。それなのに…、それなのに…ッ」
エドリオは喉の奥から声を絞り、わなわなと肩を震わせた。
かと思うと、深く短い溜息をつき、スッと顔を上げる。
「あなたには失望しました」
「──っ!?」
誰よりも傍にいた。どんな時も近くにいた。
身も心も寄り添い、生涯を捧げた。
そんな存在が自分の手を離れようとしている今、エドリオはこの選択しか見つけることができなかった。
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