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やっと自分の方に目を向けたエリスに満足げな笑みを浮かべ、ブルーノはフンッと鼻を鳴らした。
「随分気に入られているようだな。今のお前を見れば、まさか薄汚れたガキだったとは誰も思うまい。何か情報は?」
「……、東は何かを企んでおります。休戦は形だけかと」
「やはりそうか…。あの老いぼれめ…!この私の助言に耳を貸さぬから出し抜かれるのだ!」
「お声が大きいですよ」
こちらまで酔いそうな酒の臭いに見栄の張り合い。談笑の声が雑音のように耳障りだが、だからこそ穏やかなじゃない話もできる。
誰も周りの話なんて気にも止めず、自分達の欲を満たす事しか考えていない。
そんな人間ばかりがいるのに何が"友好的な集まり"だ。
そしてそんな事を思うエリス自身もまた、そんな人間の一人だった。
「決行はいつ?」
「まだだ、もう少し様子を見る。その時は何か合図を送ろう。そうだな、お前宛に差出し不明の贈り物が届けばそれが合図だと思え」
「分かりました。それで、届く物とは?」
「さぁて、何にしてやろうか…。だが一目で分かるような物だ、それまでは精々皇子と楽しんでおけ」
「…はい」
どのくらい時が流れただろう。
ブルーノと話していると時間の感覚が分からず、エリスはただひたすらに平常心を装い無表情を貫くことで精一杯だった。
彼との記憶は忌まわしく憎悪が湧く物だらけだ。
忘れたい…。だがそれは5年経った今でも鮮明に脳裏を蝕んでいる。
(全てはあの方との約束の為…。オレにはこの方法しかないんだ)
ほんの一年程前、エリスはそれでも幸せだった。
その時の記憶だけが彼の全て……いや、今は少し変わってきている。
「エリス!」
「!アルベルト様、もうお済みに?」
「ああ、一通り終わった」
いつの間にか背後に迫ってきていたアルベルトは名前を呼ぶと同時にブルーノからエリスを引き離す為腕を掴み引き寄せた。
声をかけられた瞬間エリスの心臓はドキリと大きな音を立て、会話を聴かれたのでは無いかと彼の様子を窺ったが当の本人はブルーノに好戦的な態度を見せているだけだ。
「これはこれは、お早いお戻りで…」
「これでも随分手惑いまして…、この者は返して頂きますよ」
「それは残念ですなぁ。もっとお相手を願いたかったのですが」
「代わりに他の者ならいくらでも与えましょう。ですがこいつに手を出せば…協定という物がいかに脆いものか教えて差し上げよう」
「アル…!」
皇子という立場では許されない発言をした彼にブルーノは高笑いをする。
何がそんなにおかしいのか理解できずアルベルトの苛立ちは頂点に達しようとしていた。
だがそんな時。ブルーノは突然前屈みになり飲み食いした物をその場に吐き始めたのだ。
「いや、失礼。少々呑み過ぎたようですなぁ」
「……おい!この方を別室にお連れして休んで頂け。それから、さっさとここを片付けろ」
「かしこまりました!今すぐに…!」
召使いに案内され、ふらつく足取りでこの場を去るブルーノに軽蔑の眼差しを送る。
好きなだけ飲み食いした後それを嘔吐するという行為は贅沢の一つとされ、人の集まる所では珍しくない光景だ。
「これだから卑しい者は困る。普段がどうであれ、こういう場所では弁えるべきだ。お前もそうは思わないか?」
「…そうだね」
「これが贅沢の証などと言い出した奴を締め上げたい気分だ。それに、黙って命令を聞くしか脳のない奴隷もな」
「っ!?」
苛立ちで口を動かすアルベルトの目にたまたま止まっただけだろう。
嘔吐物で汚れた床を掃除する奴隷に蔑んだ視線を遠目に向け、アルベルトは刺々しい言葉を吐き捨てた。
「ただ命令されるがまま生き長らえてそれが何になる?自分の意思も行動も見せず、やつらは恥ずかしくないのか?」
「っ────あなたに何が解かる…」
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