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エリスのその低い声はアルベルトにすら僅かにしか聞こえなかった。
「エリ…?あ、おい!?」
歩み出した肩を掴んだもののその手を払われたアルベルトは唖然とする。
何をするつもりなんだ?
いつも予想外の事をするエリスに翻弄される彼は注意深くその先を見守るが、途端に吃驚した。
「っ!!エリス!?」
「貸して。オレも手伝う」
「っ!?いけません…!これは私の役目ですから…」
床を拭いていたのはまだ年端もいかない女の子だ。
まだここへ来て間もないのか、たどたどしい口調に怯えを残しエリスが差し出した手を頑なに拒否した。
「エリス…!それはお前じゃなく奴隷の仕事だ!」
「だから何?大勢の目の前でまだ幼い女の子にこんな物の後始末を平然とさせるなんて…オレはその方が恥ずかしい」
「あ…」
「いいから早く終わらせよう。二人ですればあっという間だよ?」
「っ…はい!」
半ば強引に奪ったフキンを手にエリスがにっこり笑うと釣られて女の子も笑う。
そんな二人の様子が理解できない周囲からは白い目が向けられ冷ややかな声すら聞こえる。
だがエリスは気にせず続け、それが終わると二人で手を洗いに行き別れ際に女の子はまた笑顔で頭を下げた。
……この子は大丈夫。まだ壊れてない。
それを心のどこかで感じると少しだけほっとした気分になる。
「どういうつもりだ」
「……!」
会場に戻るつもりもなかったエリスが部屋へ向かおうとすると、柱の陰に凭れて終わるのを待っていたアルベルトは苦虫を噛み潰したような表情で彼に詰め寄た。
「先程の言葉はどういう意味だ?」
「……あなたは正しいよ。間違ってるのはオレの方だから」
少女と接する内に頭が冷えたエリスは自分の主張がいかに理想論だったかに気が付いた。
生まれながらの皇子である彼は自分とは違う。
身分の差があって当然の世の中で奴隷という最下の者の事など彼らにはどこ吹く風だ。
それなのに自分は何を期待していたのか。
そう思うと物寂しさが漂う。
「答えになっていないぞ」
「……話したくないんだ。あなたが正しいんだからそれでいいでしょ」
「待て、こっちへ来い」
「…!?放してっ、部屋に戻りたい。もうあそこへは行きたくないんだ」
「分かっている」
アルベルトは勇み足で大広間の手前にあるゲストルームへ入り、ドアに鍵をかけた。
よく考えれば自分は彼の立場を蔑ろにしたようなものだ。
「もし怒らせたのなら────」
「お前はいつも俺に知らない事を教える。だから今回も教えろ。何に腹を立てた?」
エリスの弁解に被せてきたその質問はアルベルトの純粋な疑問だった。
だが自分は彼に何か教えたのだろうか?
記憶を少し溯ってはみるがやはり心当たりはなく、エリスは少し首を傾げる。
「いいから言え。お前は肝心なことにはいつも口を閉ざす。だが俺はそこが知りたいんだ」
「……彼らには選ぶ権利なんか与えられない。折檻で死ぬ人もたくさんいるし、逃げ出せた人は凄く幸運なんだ」
────逃げ出したかった。でも出来なかった。
昼間は冷たい鎖に繋がれ牢屋の中にあった小窓から空を見上げる。
それがエリスに許された唯一の自由であり、楽しみだった。
夜になればまた欲の捌け口にされる。
エリスは知らず知らずの内にあの少女と昔の自分を重ねて合わせ、選りに選ってアルベルトにそれを蔑視されたのがたまらなく悔しくて悲しかった。
「まさかお前……」
「っ!ほら、宴に戻って。主催者がいないんじゃ格好が付かないよ?」
何かに勘付いた素振をみせるアルベルトの背中を押してエリスは無理やりこの部屋から追い出そうとしたが、逆にその手を掴まれて心臓が跳ね上がらせる。
「奴隷だったのか?」
「…………」
「どおりで探らせても出てこなかった訳だ…」
「知ってたら…"手を出さなかったのに"?」
エリスの卑屈な笑みがそう付け加え、それが正解であるかのように悲しげな視線を落とす。
「そうじゃない。例えお前が奴隷だろうが他の奴のものだろうが何も変わらない。結果は同じだ」
「っ!ウソ…だ…っ」
「嘘じゃない。まぁ驚きはしたが、エリはエリだろう?俺がどんなにお前を想っているかまだ分からないのか?…だったら証明してやろう」
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