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「オレも一緒に行く。でももう少しだけここにいよう…?」
「…少しだけだぞ」
「うん」
エリスにはそう言ったものの、こうしている間も遠くで自分を探す者達の声が聴こえてくる。
アルベルト自身急ぎたいのは山々だったが、息を整えようと務めながら気怠そうに微笑んだエリスの事を気にかけ隣りに腰を下ろした。
「最低限の事を済ませたら俺も部屋へ戻るつもりだ。だからお前は先に部屋で休んでいろ」
「え…?オレがいたら…迷惑?」
「そうじゃない。お前があんまり疲れた顔をしているから気になってな…。慣れない事をしたせいだろう」
今夜は色々な事があってエリス自身も相当疲れているはず。
だったら自分の都合で振り回したりせず早く休ませてやるべきだろうと彼は考えた。
以前のアルベルトではあり得ない思考だ。
「早く、来てくれる?今夜はもっとたくさん、あなたに触れていたいから」
「あぁ。終わったらすぐに向かう」
アルベルトはせがむエリスの額にキスを落とし、離れがたい気持ちを振り切って再び大広間へと向かった。
そんな彼をいち早く見つけたのはやはり彼だ。
「皇子!どこに隠れていたのですか!?」
「疲れたから少し休んでいただけだ。それより何かあったのか?」
気が立った様子のエドリオはアルベルトを見つけてすぐさま駆け寄り辺りを見回し声を潜めた。
「西の王が会談を望まれております」
「!なぜ俺に言う?マッシマはどうした?」
「王はあなたに一任すると。…本日も体調が優れないようでして、先ほど部屋へお連れしました」
「確かに今日も顔色が悪かったな。よく保ち堪えたというとこか」
ここ数日のマッシマ王は体調不良が続いておりあまり部屋から出てくることはなく、今日は久々に姿を現していた。
それは西にマッシマ王の衰退を悟られない為の偽装だというのは宮殿の者なら誰でも簡単に想像がつく。
どこから漏れるか分からないこんな状況で、この偽装に意味があるのかすら疑わしく思うが、西に確信されてしまう事だけは避けなければならない。
彼らの考えはそれに共通していた。
「恐れながら申し上げます。王のお体は衰弱してゆく一方の今、あなたはすぐにでも王位を継承なさるべきなのです」
「……分かっている。だが…」
「タイミングから見ても今がその時です。あなたは当然理解されているはすだ。それでもまだ拒んでおられる理由とは一体なんなのですか?」
「……西の王に会うと伝えろ。応接間へ案内しておけ」
「皇子…!!」
エドリオの引き止める声を省みること無く、アルベルトはテーブルに置かれた酒を数杯流し込んだ。
いつか。そう遠くない未来、自分が王位を引き継ぐのは目に見えている。
それはこの世に生まれた時からの決まり事であり、アルベルトの意見や主張は関係ない。
自分の意志ではどうしようもない立場にいる彼は、ふと先程エリスに言われた言葉を思い出した。
「"選べない"か。俺達は案外似いている……いや、あいつは違うな」
どういった経緯かは知らない。
生きる為に身体を売るのは苦痛だっただろう。
しかしエリスは誰よりも美しく、輝きのベールを身に纏い気まぐれに花から花へと移り行く蝶だ。
そんな彼はアルベルトの目にどこまでも続く自由を連想させた。
「いつか……俺の元からも飛び去ってしまうのか?────エリス」
雑音の中で小さくぽつりと呟けば彼の胸は突き刺されたようにズキッと痛む。
その痛みを誤魔化す為に手にした杯を少し動かせば中の葡萄酒がくるくると螺旋状に回る。
どこまで続く堂々巡りなこの欲求が満たされる日はくるのだろうか?
テーブルに添えられていた花の小さな花弁を一枚摘み、それを酒に浮かべたアルベルトはくるりくるり回る花びらと共に酒を喉の奥へ流し込んだ。
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