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見る限りの人、人、人。
そして行き交う誰もが笑顔を絶やさず、その事から活気づいた市の繁盛ぶりが伺える。
これは年に一度この国で行われている祭りのようなものだ。
「うわ……凄い人の数だね。これははぐれないようにしない……と?え!?言ってる傍から居ない!?」
賑わう街の雰囲気にほんの少し圧巻されていたエリスは、先程まで隣にいたアルベルトの姿が無いことに気が付いた。
頭からローブを被っていかにもお忍びといった風貌の二人は宮殿の抜け道からまんまと城を抜け出し、何とか周りの目を掻い潜って街の中心に位置する広場まで来ていた。
そんな矢先の出来事だ。
まだそう遠くへは行っていないだろうが、さすがに街のど真ん中で皇子である彼の名を口にする事もできず、エリスは仕方なく近くをウロウロと探し回る。
すると突然、どこからとも無く伸びてきた手が彼の腕を掴んだ。
「────おい!」
「…アル!どこ行ってたの!?一人で勝手に動き回っちゃ駄目だよ!」
「それはこっちの台詞だ!人がせっかく親切に説明してやっていたというのに、後ろを振り返ればお前の姿がどこにもないから慌てたぞ!」
「行くなら一声かけてくれたって……っ、あなたには何を言っても無駄か…」
会えた事で安心したせいか自分の声が大きいことに気づき言葉をぐっと抑えた。
だが互いがこれなら二人きりの外出など無理なのではないか。
エリスがそう考えを練っていると、何の前触れもなく彼の手を何かが包み込んだ。
「あっ……」
「向こうの方へ行ってみるか」
「っ、ちょっと待って。あの……手…」
「手?」
「だから……っ、手、繋いでる…よね?」
「あぁ、それがどうした?こうしておけばお前が迷子にならないだろ?」
「!だから迷子はオレじゃ……、なくもないかな」
エリスの落とした視線の先で指が絡まり掌が合わさる。
一周り大きなアルベルトの手はしっかりと包み込み、まるでエリスは守られているような錯覚さえ起こす。
それは心地良くないと言えば嘘になり、心地良いと言ってしまえば内なる秘めた感情を認める事になる。
エリスはもやもやと心を擽るこの感覚を無視する他なく、彼の手から視線を逸らした。
「もう少し行ったところにいつも屋台を出す商人がいる。そこの食べ物は悪くない」
「"いつも"…?職務で来てたの?」
「いいや、年に一度は必ず今日みたいにこっそり抜け出して…な」
「……悪い皇子様」
「何を言う、俺はやるべき事はちゃんとやっている優秀な皇子だぞ?それに息抜きは必要だ。だが、今年は一人じゃなくお前と来ているせいか今までで一番楽しめる気がするな。エリ、お前は?」
「…!……うん、凄くドキドキしてる」
眩しい程の笑顔を向けられ、エリスの騒ぎ立てる心臓は今にも壊れてしまいそうだ。
毎晩のように繰り返される睦事とはまた別の緊張感で顔に熱まで集まる。
「────祭り事なんて初めてだから…そうに決まってる。この程度の事で今更…」
「ん?何か言ったか?」
「な、何でもない…!」
ブツブツと呟きながら赤面した顔をローブで隠すエリスを見つめ、アルベルトは愛おしそうに目を細めて笑った。
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