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「ッ───!!」
背中の右側にドンッと強くぶつかる衝撃を感じると共に、途端に焼けつくような熱さがエリスを襲った。
全身の力が抜け、息をすることさえままならない。
エリスが瞬きを数回繰り返すたびに、まるで数枚の絵を見ているように視界は変わった。
やがてその変動は、床と誰かの足下を映し出し、景色が止まる。
そしてとても静かな世界が広がった。
短剣を持っていた左手を握って確かめる。
その手の中には何の感触も無かった。
(良かった…。ちゃんとアルに渡せたみたいだ)
動かない体のまま視線だけを動かすと、エリスはやがて、自分が床に倒れていると気付いた。
そして少し視線を上げると、エリスが恩師であるエルドから受け継いだナイフは、アルベルトの手の中で紅い雫を垂らしていた。
「エドリオ…っ、お前…」
「あなたは、もう…っ私には、必要ないん、です…。そして私も……あなたには必要ない…」
エドリオは剣を手放し、床に膝を落とした。
口元は微笑み、悲しいような、喜んでいるような瞳で涙を浮かべる。
その様子を見て、アルベルトはやっとエドリオの考えが分かった気がした。
「試したのか?俺とエリスを…」
「彼は…暗殺者です。そばには…、置けません。それでも…共にいたいなら…、【始末】、すべきです」
「……ああ。分かっている。」
アルベルトはそう答えると、弾かれたようにエリスを振り返り、彼に駆け寄った。
「エリス!しっかりしろ!」
「…………」
息も絶え絶えのエリスから返事はなかった。
自分の命の灯火が消えようとしているのを感じていたが、何一つ後悔はしていなかった。
奴隷であった幼少期。エルドに救われ、暗殺者として過ごした日々も、その殺すべき相手を愛した事も。
全ては、この終わりの為に始まったものなのだと感じた。
幼い頃から孤独だった自分が、愛する者の腕の中で最期を迎えられる。
例えどんな苦痛に見舞われていようが、その時間はとても優しく寄り添い、エリスにとってこの上ない幸福だった。
そしてたった一言。エリスの唇はありふれた一言を紡いだ。
ア、イ、シ、テ、ル
耳には聞こえず、それはアルベルトの目に映った。
王である彼がこれからどうなっていくのか。
恐らくローマを統一し、王として君臨するのは彼だろう。
エリスは見ることの出来ないであろう未来を想像し、少し微笑み、ふわりと瞼を閉じた。
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