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「は…ッ……ンンっ、んぅ……」
混ざり合う唾液を零さないよう夢中になって飲み込む。
────まだできない。あともう少しだけ。
"その時"を何度も先延ばしにしながらもエリスはしっかりとその形見を掌の中で握る。
エルドから譲り受けた想い。恩返し。それを果たすべきは今。
エリスに与えられた使命。それは、東ローマで実権を握るこの国の時期国王、つまり皇子を殺すこと。
頭ではちゃんと理解していながら未だに忍ばせたナイフを抜き出せずエリスが何度も躊躇していると、僅かに離れたアルベルトの唇が動く。
「────愛してる」
「っ…!!」
「愛してるんだ…エリス」
混ざり合う吐息の中、エリスは予想もしなかった言葉を聞いて自分の耳を疑った。
"愛してる"?
これまでに何人もから言われ聞き慣れたこの言葉には何の感情も生まれなかった。
それが今はどうだ。
胸の中が何かでいっぱいで、その埋め尽くした何かが今にもの身体から溢れそうになるのを必死で押さえつけ狼狽えた。
そんなエリスをアルベルトは愛おしそうに笑う。
「そんなに驚く事はないだろう?俺の気持ちはもう分かっていたはずだ」
「でもそれは、あなたが会いに来なくなる前の話で…!人の気持ちなんて簡単に変わるから…」
「…そうだな。でも俺の気持ちは変わっていない。いや、むしろ前より強くなった。会うことを控えればその分お前の事を考える時間が増え、それに戸惑わなかったと言えば嘘なる。これを"愛してる"と言うのだろう?」
「…ッ…分からない…」
男と情を交わすのは生きる為。そして時に命を奪う為。
目的の為には手段を選ばず、使えるものはなんでも使う。
そう教えられてきたエリスにとって、他人と身体を重ねる行為は愛情を感じ、伝えるようなものではなかった。
それはアルベルトに対しても同じだったはず……。
「エリ。俺は時期に王位を継ぐことになる。そうなれば誰にも文句は言わせない。お前は生涯俺の傍にいて、どんな至福も苦難も分かち合うんだ」
「そんなの……許されるわけ…っ」
「それを決めるのは俺だ。この国の王がいかに有能か、それを知らしめれば自ずとお前の存在も認められる。…あぁ、お前の返事がまだだったな」
「アル……」
互いの鼻先が掠めるほど近く、密着した胸にアルベルトの騒ぎだした心臓の音がエリスへと伝わる。
平然を装ってはいるが、彼は緊張しているのだろう。
そう思うと胸が熱くなり鼻の奥がつんと痛みを発し、エリスはこの上ない喜びを感じた。
だが、右手に握った冷たいナイフの感触がそれを許さない。
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