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Cruel fate.1
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以前から体調が思わしくなかったマッシマ王はある日、まだ陽も登らない早朝にアルベルトを呼び出した。
「アルベルト様…」
「分かっている。そろそろ限界だろう…」
体力の低下に伴い高熱が連日続き、周りの者は皆覚悟していた。
それと同時に新たな王への期待と不安を胸に抱えてもいる。
だがそれは当の本人にも言える事だ。
「────失礼します。王よ、私をお呼びですか」
「……アルベルトか…」
王の寝室へ入ったアルベルトの耳に届いたのは弱り果てて今にも消えてしまいそうな父の声だった。
昔から自分達家族をかえりみず、幼子だったアルベルトの目に立派な父親の影は見えなかったが、それでも周囲の大人達の中では一番大きな背中だった。
いつか彼を超えてみせる────。
そう胸に秘めさせた背中は今や小さく丸みを帯び、嫌でもアルベルトに彼の衰退を感じさせた。
「恐らく……わしはもう長くはない。覚悟の程は決まったか…?」
「……はい。全て心得ております」
二人の間にあるのは父子以上に王とその後継者としての壁。
二人の光景を見ている者達にはあまりに悲しく冷たいものだったが、アルベルトにとってそれは然程悪いものでもなかった。
彼らはごく平凡な親子ではない。
生まれた時から生きる道が決まっており、それに抗う事をせず真っ直ぐ歩み続けた何よりの証拠が今の形。
親子とは言え、その関係や形は人それぞれでいいとアルベルトは考えていた。
「……そうか。考えてみれば…お前には何も父親らしい事をしてこなかったな…。お前の母が命を落とした時も…。」
「……。これが俺達なりの親子の形であった事は変わらない。良くも悪くも、あなたは私の父であり、一国の王として立派でした。ですが越えさせて頂きますよ、あなたの背中」
「…ククっ、生意気を言いおって……。しっかり見届けてやろう。お前のその啖呵がどこまで続くか……。数日中に継承の儀を執り行う。心せよ」
「はい」
マッシマは満足そうに笑った。
そして目を細め、一礼して背を向けた息子に眩しそうな視線を送る。
今まで散々多くを望み、その全てを手中に収めてきたマッシマは最後の願いとしてあまりにもありきたりな言葉を思い浮かべた。
────どうか息子に幸多からんことを……。
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