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distance…
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「はぁ…はぁ…っ」
何から逃げているのだろう。
なぜ逃げているのだろう。
暗闇の中をがむしゃらに走り、裸足の足に時折激痛が走るが、それでもエリスは立ち止まらなかった。
死ぬのが恐いわけでもないのに、なぜこんなにも必死なのか。
どの疑問に対しても納得のいく答えは一つも浮かばない。
「アル…………」
追っ手を振り切った後、静かな深い森に入ったエリスはやっと足を緩めふと彼の名を呟く。
それは身も心も遠く離れてしまった愛する人。
触れたくても触れられない、会いたくても会うこともできない。
"素直に事情を話していれば彼は自分を受け入れてくれただろうか"とバカな考えまで浮かび、ふっと苦笑いをする。
答えはきっとNOだろう。
「ブルーノ様に報告しないと…」
正体がバレてしまった今、エリスが任務を遂行するのは不可能だと言える。
だがもっとも、彼はすでにそれを放棄していて、ブルーノも薄々勘づいているかもしれない。
だとすれば祖国の行動はただ一つ。エリスは始末される。
「…………」
何の為に逃げ出した?
行く宛なんてどこにもないのに。
頭の中で何度も同じ言葉が浮かび、エリスはなんとか理屈を探し出そうとした。
祖国への忠誠心?そんな物は少しもなかった。
あったのはエルドへの恩に報いたいという揺るぎない決意のみだ。
しかし、アルベルトの側に居たいが為にそれすら実行する事ができなかった。
アルベルトにナイフを振りかざした時、エリスの頭にあったのは"この男を自分だけのものにしたい"とあう独占欲だ。
「アル……会いたいよ…、アル……ッ」
胸の奥がナイフで引き裂かれたようにズキンッと痛む。
このまま祖国への帰り、人知れず始末されるのかと思えばアルベルトへの想いは募るばかりだ。
最後に見たアルベルトの瞳。悲痛な声。困惑した表情。
そのどれもがエルス頭から離れず、迷いに迷った彼はとうとう考えるのをやめた。
「────どうせ死ぬなら…」
"心のままに生きよう"
そう決意し見上げた夜空は木の葉の隙間に月の明かりが見え隠れする。
今宵は月夜だ。
その明かりはエリスが辿る暗い夜道を照らし、漆黒の影は彼の姿を隠す。
それはまるで自分の決意を後押ししてくれているように感じ、エリスはこの時初めて"神"というものに心から感謝を示した。
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