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エリスが姿を消してから二日目の晩。
アルベルトの心を映し出すかのような厚い雲で覆われた空は、今にも泣き出しそうだ。
「失礼します。追跡部隊からの報告が上がりました。あの暗殺者の足取りは国境付近で途絶え、行方を眩ましたとの事です」
「そうか」
「恐らく西へ逃げたのでしょう。ですがあちらも恐らくあの者の存在を持て余しているはず。何せ皇子の命を狙ったのですから」
「そうだな」
「こちらが要請すれば素直に差し出すかと思われますが、いかがなさいますか?」
「……任せる」
「皇子……」
職務室の椅子に座り、アルベルトはただぼんやりと面白味のない空を眺める。
この二日間、彼はほとんどの時間をそうして過ごしていた。
「このような事はこれまでに何度もあったではありませんか。今回も同じです。何ら変わりない。それなのになぜそうまで気落ちするのですか?」
今更傷ついた訳ではない。
刺客による色仕掛けも命を狙われる事も、アルベルトにとっては珍しい出来事ではない。
「……どうでもいい」
「アルベルト様、どちらへ──」
「1人になりたい。付いてくるな」
「…………分かりました」
エリスが離れていったという事実。そして、自分が心から愛したにも関わらず裏切ったという現実。
それらがアルベルトを深く傷つけ、失望させた。
彼にとって、エリスの代わりはこの世に存在しない。
それが解っているはずにも関わらず、エリスなぜこんな行動に出たのか。
彼が最後に見せた表情が一瞬たりとも頭を離れず、アルベルトは何かに誘われるようにふらりとある場所へ足を運ぶ。
エリスの部屋だ。
見張りの居ない、通い慣れた廊下を一歩一歩進む度、彼と過ごした日々が甦る。
分かり合えなくて喧嘩した日もあった。
ちょっとした事で笑い合う日もあった。
互いに見つめ合い、求める日も…。
その全てが嘘だとはどうしても思えず、アルベルトはひたすら答えを求め続けた。
「…………」
一呼吸置いてドアを開ければ、開かれた窓のカーテンがふわりと深呼吸する。
エリスの居ないこの部屋はどこか冷たく寂しげで、アルベルトは僅かな温もりを求めベッドへと転がり込んだ。
まだ、微かにエリスの気配が残っている。
その余韻に浸る様、アルベルトは静かに瞼を閉じたが、ふと違和感を感じ薄目を開けた。
(窓が……開いていた?)
エリスの出来事以降、虫一匹も侵入できない程宮殿内は厳しく警備されている。
窓が不用心に開け放たれている事など考えられなかった。
「──誰だ!」
勘づいたアルベルトは咄嗟にベッドから飛び起き、腰に差した剣に手を掛け暗闇の部屋の中に目を凝らし緊張を高めた。
見えない何者かの気配を探り、その者が何を企んでいるのか思考を回転させていると、予期せず曇天の空から一筋の光が差し込む。
それは優しく窓辺から部屋の中を照らし出し、あるはずのない幻影の姿を象った。
「っ!!エリ……ス…?」
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