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自分は幻覚をみているのではないか。
そう思ったアルベルトの声は震え、掠れていた。
声をかければ消えてしまうような気がしたからだ。
「お前…なのか…?」
絞り出すその声にカーテンは柔らかくはためいた。
だが、エリスからの返事は返っては来ない。
「っエリス──!!」
「ッ──」
とうとう痺れを切らし、アルベルトは怒りのままに駆け寄るとエリスの胸ぐらを掴むと腰に指していた短刀を抜き、その先を彼の喉へ押し当てた。
「何故だ!何故あんな事を…!どうなるか解ってんだろな!!」
「…………うん。そのつもりで戻ってきた」
「!?」
この状況で告げられる言葉など他にいくらでもある。
それでもやっと開いたエリスの口から聴けたのは謝罪でも理由でもなく、選りに選って彼の覚悟だった。
「自ら殺されに来たのか…?」
「うん」
彼の声に怯えはなかった。
剣を目の前にして抵抗もせず焦りもしない。
そんな彼の様子を理解し難いアルベルトの胸の内は戸惑い、大いに狼狽えた。
「何故あんな事を……」
「言い訳をするつもりはないよ。だから早くオレを殺して」
「その前に答えろ!何故俺を裏切った!?」
エリスが何者でも関係ない。
本気でそう思える程、アルベルトは彼を愛してしまった。
にも関わらず命を脅かされ、"自分に非があったからではないか"とさえ考えた。
だがいくら考えたところで所詮妄想に過ぎず、彼は納得のいく答えを欲した。
「…裏切ってなんかないよ」
「なに…?」
「確かにあなたを殺そうとした。だけど裏切ってなんかない。ただどうしても……あなたを奪われたくなかった」
「どういう意味だ…?」
「オレは今まで、あなたの知らない所で大勢の命を奪ってきた。なのに今更、恩師を裏切り国を裏切り、"それでもあなたと生きていけたら"なんて……そんなの、都合が良すぎたんだ。だからもう終わらせたい」
エリスは淡々と静かな口調でそう答える。
これまで囚われていた柵(しがらみ)を解き、一つの覚悟を決めた彼の心中はとても清々しく平穏で、それが例え死を目前にした瞬間だとしても、エリスにとっては本望以外の何物でもなかった。
「あなたの手で……オレを終わらせて。オレの全部、あなたにあげるから…」
「ッ……」
「さぁ、早く…。他の誰かじゃ嫌なんだ。あなたじゃなきゃ…」
「なぜ……」
「お願い、アルベルト」
「こんなの……っ、他に方法はなかったのかよ…!!
」
「……なかったんだよ、他の方法なんて。オレ達はきっと、最初からこうなる運命だったんだ」
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