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家族.3《リクエスト》
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「日比谷、ごめんね。皿洗いなんかさせちゃって」
「いや、俺がやりたいって言ったし。世話になってばっかじゃ悪いから」
食事が終わって、鈴原は眠ってしまった玲くんに膝枕をしている。洗い物を全て終えれば、鈴原に手招きされて向かいに腰を下ろした。
「......聞いていいのかな。どうしたのって」
正直、鈴原とは顔見知り程度でそこまで仲が良いわけじゃなかった。けど、弱った心に優しくされたことで、全てを話したくなった。
「......妻と離婚したんだ」
「そうだったんだ......」
「仕事から帰ったら家に知らない男がいてさ......離婚届まで引き出しに隠してたみたいで、即書かされた」
早いものだった。浮気したのは妻のはずなのに、まるで俺が全部悪いみたいに。
それでもまだ妻のことを好きな俺は、アホと言われても仕方がない。
少しの間沈黙が流れ、それを打ち切ったのは鈴原の静かな声だった。
「日比谷とは少し違うけど、うちも妻がいないんだ」
「......」
「玲を産んですぐに亡くなってね。以来、俺が仕事してる間は、妹が玲の面倒を見てくれてる。玲はいつもニコニコしてて、手がかからない本当に良い子なんだけど、良い子すぎる。......無理させちゃってるんだろうな」
膝の上で眠る玲くんの頭を愛おしそうに撫でる鈴原。その姿がずいぶんと美しく見えた。
何も言葉をかけることができず、しばらく見惚れていると、ふいに鈴原が顔を上げる。
「日比谷はどこに勤めてるんだい?」
「近くの会社。サラリーマンだよ」
「そっか。なら、日比谷さえ良ければ、ここに住まないか?部屋探すにしても、しばらくは時間がいるだろう?」
「え?いやでも......」
正直ありがたいけど、そこまで甘えて良いものなのだろうか。さっきも思ったけど、本来は鈴原と俺は友人ではない。よくて顔見知り程度なのだ。それなのに、なぜそんなに親切にしてくれるのだろう。
お言葉に甘えるべきかどうか、考えあぐねていると、玲くんが少し身じろいだ。
「ん.....」
状態を起こして目を擦る玲くんに、鈴原が話しかける。
「玲、太樹さんが一緒に住んだらどう?」
「たいきさんが......?」
「ああ」
玲くんは数秒考えて、ニコッと眩しい笑顔を見せる。
「うれしい!」
「れ、玲くん?」
「いっしょにすもう。たいきさん」
無垢な瞳。
提案自体は本当にありがたいし、そんな目で見つめられては、お願いする以外の選択肢はないように思えた。
「あ、えっと......じゃあ、よろしくお願いします」
おずおずとそう言えば、鈴原は可笑しそうに笑う。
「はは。決定だね。じゃあお風呂でも沸かしてくるかな」
そう言った鈴原が風呂場へいなくなると、玲くんが俺の横に寄ってきて、耳元に口を寄せてくる。内緒話のような小さな声が耳に響く。
「ねえ、たいきさん」
「ん?」
「父さんが“ともだち”つれてきたの、はじめてなんだよ。おれ、たいきさんが父さんのともだちで、うれしい」
そうして俺は鈴原の家に居候することになった。
数週間で新しい家を借りて鈴原の家からは出たけど、それ以降も二人と頻繁に会っていて......まあ、色々あって今の状態に。
二人と過ごす時間は怖いくらいに、幸せだった。
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