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「5寮!? マジでっ?」
「うん。5寮だよ~。安いし、ご飯もいいみたい!」
春は引っ越しの季節。
うちの大学の男子寮でも引っ越しをする学生がいっぱいでどことなく落ち着かない空気に包まれている。
この春から2年生に進級する俺も引っ越し組のひとりで、今まで住んでた第1寮は1年生優先だから4月からは別の寮に移ることになった。
与えられた選択肢は第2寮~第5寮。
第2寮は寮費も安く、建物も新しいけどなかなか空きが出ないし、第3寮は高くて第4寮は古い。
寮費も手頃でそこそこ新しいという第5寮に飛び付いた。
「1寮より部屋も広いんだってー」
今日から第5寮に移るってことで友人たちが見送りに来てくれた。
大きな家具類は部屋に備え付けられているから、引っ越しといってもスーツケース1つでいいし楽チンだ。
「あの5寮か」
「あの5寮だと」
第5寮への入寮にワクワクが止まらない俺を何故か友人たちは遠巻きに見守っている。
「あのってどの?」
問い掛けてみても友人たちは何も言わずただただ複雑そうな顔を見あわせている。
「5寮に何かあるの?」
「何かあるってより何か『いる』んだよな」
「そうそう」
「例のあいつが居る所だろ?」
「あいつな。めっちゃ綺麗好きの」
「散らかし魔の望夢だったら3日と持たずに追い出されるかもなー」
どうやら綺麗好きの寮生が居るみたいだけど、何故にここまで話題にされるのか。
「健闘を祈るーっっっ」
「出戻ってきたらうちに来いよ」
「餞別(バナナ)」
友人たちは口々に言い残すとそそくさと走り去ってしまった。
一体何があるというんだろう?
出戻って来たくなるような何かが第5寮にはあるのか?
あの会話だけじゃあわけがわからない。
まぁいっか~。
手の中に残されたバナナをスーツケースに入れようとしたけど、わざわざ開けるのが面倒くさくてパーカーのポケットに突っ込んだ。
大学の敷地を奥までずんずん歩いていくとちょっとした林が広がっている。
林の中には小さな池があって覗き込むと亀が泳いでいるのが目に入った。
のどかでいい所だな~。
大きな道路に面していた第1寮はコンビニが近くて便利だったけれど落ち着かないところもあった。
今度は打って変わって静かな環境で、これから始まる新生活に自然と気持ちが高まってくる。
第5寮に到着する頃には友人たちが話していたことなんてすっかり頭から抜けていた。
現物を見るのは初めてだけど、外観はレンガ造りのお洒落な建物で居心地が良さそうだ。
荷物を手に、寮のドアを開けると内装は落ち着いたモノトーンで纏められている。
入ってすぐ、壁に貼ってある大きな紙に目が止まった。
≪寮則≫
土足厳禁
禁煙
各自は居室を清潔に保つこと
1日に1回寮長が清掃のため巡回する
ベッドで物を食べることはこれを厳格に禁ずる
パソコンで打たれた活字の下に『ベッドで~』のくだりだけが丁寧な字で手書されている。
寮則か~。
第1寮でもあったのかもしれないけど、記憶にない。とりあえずこんな貼り紙はなかった。
靴は今脱いだし、タバコも吸わない。
ベッドで物は、たぶん食べるけど毎日寮長が掃除に来てくれるらしいから大丈夫だ。
うん。問題なしっ!
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