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疲れていても
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「やっと終わったね」
「はい」
今日から新しい寮生が一人入って来たから、部屋の用意をしたり歓迎のご馳走を作ったりと台風のような1日だった。
買い物や料理ら俺やユタカも手伝ったけど、それでもいつもの倍以上に仕事をこなした晩里がお風呂から上がるのを待って部屋に戻ると明日はもう目の前まで来ていた。
晩里のベッドで枕を並べて横になると、アイスクリームが溶けるように体の緊張がスーッと解れていく。
疲れてるからすぐ睡魔が襲って来そうなものなのに、眠くなるどころか逆に目だけはパッチリと冴え渡ってくれている。
明日が休みだからかな。
「疲れたね」
「ええ、とても。ですが望夢たちが手伝ってくれたお陰で何とか今日中に仕事が終わりました」
ご褒美に明日ユタカと一緒にお昼を食べに連れてってくれるというから楽しみが出来た。
さ~寝よ寝よ。
早く寝て明日に備えなければ。
寝坊して折角のランチを不意にしてしまっては勿体ないからね。
……と、張り切って寝ようとしたのにワクワクし過ぎてさっきまで以上に目が冴えて全く眠くならない。
あ~眠くない、眠くない。
枕の上で頭を右に左にゴロンゴロンやっていると隣からクスクス笑う声が聞こえてきた。
「まるで遠足前夜の小学生みたいですね」
ソワソワと落ち着かない俺の様子を見かねたのか、晩里の腕が伸びてきて大きな掌で頭をグッとホールドされる。
「いい子にしてないと、明日連れていってあげませんよ?」
俺の瞳を真っ直ぐ覗き込んでニッと微笑った晩里の顔が、只でさえ寝付けないところに拍車を掛ける。
目だけじゃなくて心臓まで冴えて来ちゃったじゃん。
みんなが言うようなイケメンではない。だけどパーツの一つ一つが正確に整った晩里の顔面は時に壮絶と言えるほどの美しさを醸し出す。
特に今みたいに口角をちょっとだけ動かして微笑んだ姿はゾッとするほど扇情的で、魂を持ってかれそうになる。
俺しか知らない筈がない。
「晩里、俺以外の人の前で笑っちゃ駄目だからね」
「は?」
また変な遊びでも思い付いたんでしょうと疑いの目を向けられるけど今回ばかりは潔白だよ。
「ん、やっぱり何でもない」
「貴方が本当にそう願うのであれば、私は金輪際貴方の前以外で笑みを見せませんよ」
本当はそうして欲しい。
だって、晩里の笑みを見て好きになってしまう人が居るかもしれないから。
だけど。
「ごめん、やっぱり今のなしで。全然笑っていいよ」
人前で笑っちゃ駄目ってのはいくら何でも酷だよね。
「だけど笑う時はカバみたいに大口開けて笑って」
何ですかそれ? と胡散臭そうにこっちを見る晩里の目が猜疑心に満ち溢れている。
「ね、腕枕して?」
あんまり面と向かってこんなこと言わないからか一瞬固まりかけたけど、晩里は素直に右腕を差し出してくれた。
「あったかい」
晩里の二の腕はほんのりあったかくて落ち着く匂いがする。
心身が解れると同時に今まで何処で待機していたのか睡魔が急激に襲来してくる。
指の1本すら動かすのが億劫で、瞼も貝殻のようにぴったり閉じてしまった。
至福の時間を味わい尽くしたいけど、その願いはどうやら叶わなさそうだ。
晩里の長い指が髪をそっと鋤くのが心地よいのに、何の反応も返せないぐらい眠りの淵に落ちてしまっている。
「おやすみなさい」
おやすみ……晩里。
(完)
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