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春の章一 風光る
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遊命が足をぷらぷらさせながら、ピアノの奏でる音に聞き入っていた。
机が揺れているのも気がつかないほど集中している遊命を、間近で見ていた綾哉は、小さな子供みたいだと目を細めた。
遊命にとって、藍の奏でる一音一音が煌めきを放っていた。
曲は展開し、また元の旋律に戻っていく。似たような旋律を繰り返しながら高みに昇り、最高潮でラストを向かえた。
「おぉーっ、すげぇ。巧い!」
感嘆の声と共に拍手が起こる。
「初めて止まらずに、最後まで聴いた。りぃが弾くと、途中でつっかえるんだよな」
遊命が高揚し、足をばたつかせながら言った。
「指の動きが早くなるからね。他に何か弾く?」
「俺、曲名知らない。あやや、何か知ってる?」
「…あや…、いや」
「あややも知らないんだよな」
藍が声を圧し殺して笑う。
「…俺はりょうや。年上だって分かってる?」
「うん」
遊命はケロッと返事をした。
「これはどう?」
藍は、二人が知っていそうな曲を選び、弾き始めた。
「…聴いたことある」
切なく繊細なピアノの旋律に、遊命が反応する。
「エリーゼのためにだよ。さっきより色気があるでしょ?」
「色気…って必要?」
「そりゃ、ないよりあった方がいいよ。文字通りイロを着ける訳だからさ。弾いてる奴の個性が出るよね」
「ふーん、そうなんだ」
遊命は相変わらず、足をぶらぶらさせていた。
「藍のピアノは紫」
綾哉が頬杖をつきながら言った。
「むらさきぃ?」
「黒のバックに紫とピンク」
「うぇ~、どういう色彩感覚なんだよ。もっと爽やかなイメージにしてくれよ」
「あいちゃんって言うの?」
遊命が、藍を指差して綾哉に訊いた。
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