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春の章一 風光る
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可児は昇降口まで来ると、やっと遊命の手を離した。
長い距離を走った訳でもないのに、可児の息は上がっていた。
「…ぃてて…」
遊命は赤くなった手首を擦りながら、可児の表情をずっと見ていた。
可児は音楽室にいたときから変わらず険しい顔つきで、昇降口に脱ぎっぱなしにしてあった靴を履き始めていた。
「…藤沢と何してたん?」
「何って、ピアノ聴いてただけだよ」
「身体触られてたやろ」
遊命は可児の言葉で、全開になっていた詰襟を元に戻した。
「…あぁ、新手のイジメかと思ったよ。いきなり手首掴まれてさぁ」
「イジメでキスされたことがあるんか!?」
可児が振り向き様に、遊命を問い詰めた。
「あるわけないじゃん。だから新手って。何? 藍ちゃんと知り合い?」
「…大阪のな」
「何かあった?」
言葉はそれほど激しくはないが、怒りを露にした可児の態度に、ただの知り合いではないだろうと遊命は感じていた。
遊命は可児の答えを待ったが、可児は目を逸らしたまま、何かを言いかけては口をつぐむ、を繰り返した。
「…とにかく、藤沢には近寄んな」
漸く出た言葉に、遊命は納得できなかった。
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