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act.1
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孤児というのは、世の中いやむしろ世界中どこにでもいる。交通事故で亡くした子も、病気や怪我や、貧困家庭の事情という子も、小桃園にはいた。もちろん、僕も両親を交通事故で亡くしてからの14年間はここの人達に育ててもらった。
そして無事に高校へと入学が決まれば、僕はすぐにアルバイトを始めた。たくさん失敗する事も多かったけれど、色々な経験が僕を育ててくれたと思う。
高校を卒業すれば、立派な大人として社会に出なくてはならない。小桃園も同様だと聞いたのは、つい先日の事だった。
14年もいれば、貰われていく子もいれば僕みたいに貰い手もなく、自身で自立して行く子達を何人も見てきた。だから、そろそろそういった話が僕にも回ってくるのだろうという覚悟はすぐに出来ていた。
幸いアルバイトを頑張っていたおかげで、それなりの貯蓄はある。高校も頑張って特待生のまま卒業が見込みになり、大学では奨学金が借る事が出来たので学費にも困る事はない。アパートも園長が知り合いの方に聞いて下さったおかげで、なんとかうまく取り計らっていただけている。
なので自立をするという点において僕は、自分でも不思議なほど冷静に準備は上出来だった。
このまま、何事もなく卒業を迎えるまで残り2ヶ月。
本当はとても慣れ親しんだここから出て行きたくはなかった。自分の居場所があるのに、これからは本当に1人で生きて行かなくてはならない。日に日にここを離れる日が近付くにつれ、僕の気分は落ち込んでいくばかり。
みんなに心配はかけたくないので、上手くやり過ごすけれど、1人で眠る時はとても寂しいと不安になってしまう。
ーーそんな時、彼は現れた。
その日は、曇天ばかりだったお天道様も久しぶりの顔を覗かせ、僕達の気分を上げてくれていた。
今年の1月は、都内でも雪が積もるほど冷え込んでいたから、園の皆を連れて庭園で遊ぼうという話だった。
本当に小さい子以外の平均5?12歳ぐらいの子達と一緒に今日は、だるまさんが転んだをしようと僕が誘ってみる。
ちょっとお兄ちゃんやお姉ちゃんになってきた子達からすれば、面白くないかもしれないけれど、皆優しい子達ばかりだから、すぐにやろうと皆を促してくれた。
「・・・じゃあ、僕が鬼だからね?、だるまさんが転んだって言ってる時は、動いててもいいけど、僕が言い終わって振り向いたら動いちゃだめだよ? あと、どんどん近くなったらタッチして走って逃げてね! 捕まったら鬼になっちゃうからね!」
「わかったあ!」
「うんっ、じゃ最初は練習ね!」
「はやくはやく!」
急かされるように庭の1番大きな木まで走り、顔を皆から隠した。
大きな声で、ゆっくりだるまさんが転んだを口にする。
「だあるま、さんが?、こーろーんだっ!」
「・・・・」
「だーるーまっ、さんが! ころーんーだ! 友くん動いた?」
「難しいよぉ!」
「もう少しゆっくり言う?」
「うんっ」
「じゃあもう一回ね、友くんも戻っててもいいよ?」
とてとてと走り、皆の位置を確認したぼくはまた顔を木に押し付け、だるまさんが転んだを口にした。
今度はさっきよりもゆっくり言う事を意識しながら。
「だあるうまあ、さんが、こーろーんーだ!」
「・・・ドキドキする?!」
「あーしゃべった?、凛ちゃんアウト!」
「あっ! そうだった!」
「ふふふ、いいよ、次はだめだからね?」
「ゆずくんありがとうっ!」
「はーい、じゃまたいくよー」
何回か鬼が交代し、今度はかくれんぼをしようと誰かが言い出した。園の中以外で、庭園と遊具場に限定し、じゃんけんが始まった。
僕は、勝ったちっちゃい子達を連れて、庭園の植え込みに皆で隠れた。
「ゆずくん、見つからないかなぁ?」
「うん、ここなら大丈夫かもね!」
「しー、見つかっちゃう」
ドキドキ、ワクワク、オロオロ、小さい子達の色んな表情が可愛くて仕方ない。思わず顔が弛み、小さい子達とクスクス笑ってしまう。
その小さい手も、まあるい大きな瞳も、一緒に育ったから僕の弟妹みたいなものだ。
時折柵の向こうを車が何台か通って、僕達を冷や冷やさせたけれど、最後まで勝ち残ることが出来た。
丁度かくれんぼが終わる頃、園長達が僕達にお昼の時間だと知らせる。
小さい子達と一緒に手を洗い、お昼の支度を手伝おうと給食室へ飛び込むところを園長に呼び止められた。
「あぁ、良かった」
「園長どうかしました?」
「ここじゃ、あれだから少し場所を移動してもいいかしら」
「分かりました」
いつもより幾らか慌てた様子の園長に、僕は首を傾げた。何かあったのかなと、園長が場所を移動するのに続けて、僕も歩き出す。
園長の部屋の前を通り過ぎ、更にその奥の面会ルームへと僕を案内した。
誰かが僕と会う予定など、今の所はない。もしかして、何か特別な話でもあったのだろうか、それとも足長おじさん的な役割をして下さる方が現れたのだろうか。
色々な憶測が頭の中を駆け巡り、園長が深呼吸をし、中へと入って行った。
「すみません、お待たせ致しました」
「こちらこそ突然邪魔した上に厚かましい事まで、申し訳ない」
「いいえ、どうかお気になさらないで下さい、あ、謙くん、こちらにいらっしゃい」
開け放たれたドアの先、対面ソファの前にはそこに似つかわしくない人が2人立っていた。
2人とも同じ、よく分からない布の服らしきものをまとっていた。突然異次元に連れて来られた気持ちになった僕は、てんてこ舞いになった頭のまま言われた通り園長の隣に立った。
「野々宮謙くんです、アズハル殿下が御目にされたのは彼で間違いなかったでしょうか?」
「あぁ、彼だ」
「それは良かったです、・・・お茶の準備をしますので、お掛けになさって下さい」
「あぁ、すまん、ありがとう」
どこからどう見ても日本人ではない彼は、僕の顔から目を離さなかった。園長に手を引かれ、ようやっと自分がその場にずっと立ち続けていた事を思い出す。
顔を上げていないと伺えないほどの長身、日に焼けた褐色の肌と、キラキラした何かの宝石が埋まっているような青と緑が混ざったような瞳は、この世の人間とは思えないほど綺麗だった。
合わせてどこかの中東系の民族衣装を着ている彼は、王様然と見えた。
途端に緊張感が押し寄せる。
園長も緊張しているのか、慣れない言葉がたどたどしく聞こえてくる。
「そんなに緊張しなくて構わない、長い付き合いだろう」
「そうは言いましても、ドキドキしますよ、いつも」
「そのぐらい砕けた話し方の方が気にならん」
「ふふ、ありがとうございます」
「・・・ところで、年はいくつになった」
瞬きする事さえ忘れ、僕は飛んでしまった意識を現実に戻した。
質問されたのに、言葉を発せない。それでもシーンと皆が僕の言葉を待つ。
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