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篠宮修
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「おはようございます、桜子さん」
カーテンの隙間から差し込む朝日に目を細めながら、写真の中で柔らかく微笑む妻に語りかけ私の一日は始まる。
出会った時から既に体が弱かった妻は、私と結婚したすぐあとに亡くなってしまった。
あれからもう、二十年近くたっただろうか。
写真の中の美しい妻とは裏腹に、私は白髪のおじさんになってしまった。
「今日もいい天気ですね…」
庭に降り積もった雪に朝日が反射してキラキラと光っている。
祖父の形見の少し度が強い丸眼鏡をかければ、その輝きはいっそう際立って見えた。
「あっ…もうこんな時間…」
気がついて時計を見ると、時刻はもう9時を回っている。
いつもより少し遅い時刻に焦りながら、身支度を整え、仕事着の真っ白なシャツに袖を通す。
黒いスラックスを履き、腰に茶色のソムリエエプロンを巻く。
体に染み付いたこの動作を流れるようにこなし、私は部屋を後にした。
私の家は二階建てで、一階部分が喫茶店に、そして二階部分が私の居住スペースになっている。
喫茶店は小さく、こじんまりとしているが、開店当時からの常連さんもいるし、夕方になれば満席になる。
我ながらなかなか繁盛しているのだ。
オープン一時間前。
ローストしたコーヒー豆の香りが店内に漂う。
オープン前の静かな店内で、この芳しい香りを楽しむ時間は、私にとってはかけ換えのないものだ。
ようやく店内も暖まり始め、カウンターに頬杖をついてうたた寝しようとしていた時、ドアチャイムがカランコロンと鳴った。
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