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序章
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「石鹸などは…あるものを使ってくださいね…、私は近くの部屋にいますから、充分温まったら呼んでください」
彼をお風呂場で降ろし、その場を立ち去ろうとするとエプロンの裾を掴まれる。
「ここで…なにするの、?」
大きな瞳が不安げに揺れ、私を見上げた。
「ここはお風呂ですよ?…君の家のものとは少し違うかもしれませんが、体を洗ったり、温めたりするところです…」
「お、ふろ…?」
「そうですよ…?」
「おふろ、って…なんだ…?」
「え…?」
目が点になるというのは、こういうことだろうか。
風呂を知らない?、まさか。
私はしゃがみこんで彼と視線を合わせた。
「君、お風呂を知らないんですか?」
「ん…」
案の定頷いた彼を見て、 一抹の不安を覚える。
「君、名前は…?」
「無いよ…」
「そんなはずないでしょう、生まれたときにお母さんやお父さんに貰ったはずです」
「本当に無いもん…っ…!」
「っ…」
目の淵いっぱいに涙をため、顔を真っ赤にしながら訴えるその顔が、嘘をついているようには思えない。
"記憶喪失"
この四文字が脳裏を過ったが、そんなものはきっとドラマや漫画の中だけのものであって、本当に起こりうることなのだろうか。
「ねえ…僕寒くて死んじゃいそう…っ」
「えっ、あ…そうですね…とりあえず入っちゃいましょう…」
危うく思考の中にトリップしそうになっていたが、彼の声で現実に引き戻される。
両手両足の袖と裾をまくりあげ、私は彼と一緒に浴室に入ることにした。
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