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凄絶なプラトニックアイロニー
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さよなら……
そう、春馬は別れを告げて、矢那瀬から離れた。
矢那瀬は、別れを受け入れた。
それが高校三年、卒業証書を手に春の風に当てられていた時だった。
矢那瀬たちの交際は、いつも一方通行だった。
矢那瀬が帰ろうと言わなければ、共に帰ることはなく。
矢那瀬が出掛けようと言わなければ、春馬は天賦なフェイスを女に振り撒き、街を歩いた。
いつだって、矢那瀬が春馬を想うばかりで、春馬からは何も返っては来ない。
それでも、矢那瀬は、清らかに、純粋に、春馬を好きだった。
小さな幸せを喜ぶことができるような、健気な矢那瀬。
だからこそ、別れを告げられた瞬間、耳につんざくのは春の風がそよぐ桜の木。
克明に耳に刻まれた木々たちの囁きは、矢那瀬をトラウマへと引き寄せた。
毎年春になれば、春馬のことを思い出す。
青嵐、と言った方が今や相応しい。
木々たちがそよぐ、そんな生温い記憶ではなく、今でもちかちかと昨日のことのように思い出される。
そんな社会人五回目の春だ。
派遣会社で働く矢那瀬は、今度の移動が矢那瀬コーポレーションという物流を主に行う会社になった。
名字が同じということもあり、親近感の沸く会社だと思っていた。
これから一年間、矢那瀬は此処でまた、一から仕事を覚え始める。
青嵐に負けず、ちかちかとする木々の木漏れ日に目を向け、今年こそは。
矢那瀬は「今年こそ、春馬を忘れる」と胸中にそっと呟いた。
高校時代、良かれ悪かれ思い出になるのだ。
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