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春、ほろ酔い
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黒田ほどではないにしろ、だんだんとアルコールが回ってきたようだ。先程と比べるてあまりイラつかないし、なんだかふわふわする。
「このクソガキ、すーぐ嫉妬するけど実は結構凄いんですよ。仕事出来るし、口悪いけど教えるの上手いって生徒に評判だし」
だからガキじゃないっつうの。「口悪い」も余計だし。褒めちぎってくれてるから許してやらなくもないけど。
酔っ払った先輩が明らかに自分の機嫌を直そうとしてくれているのが分かったが、それでも褒められて素直に嬉しい。まあ口車に乗せられて機嫌直してやっても良いかなあ、なんて思って聞いていた。
田口の次の一言が耳に入るまで。
「大学在学中なんて、二年近くもアメリカに留学してて英語もペラペラだしなあ」
あまり人に言われたくない、というか触れられたくない過去を引き出しの奥から引っ張り出されたようでどんどん気が沈んでいく。
ただ、今朝見た夢の正体がなんとなく分かった点では良かったのかもしれない。最悪だが。
あーあー、もう結構前のことだし忘れかけてたけど、やっぱ嫌いだな。その話されんの。
別に留学中に何かすごく悪いことが起きたわけでもない。思ったように英語力が上がらなかった訳でもないし、むしろより広い世界を知る良い機会にもなった。だけど、…だけど。トラウマというほどのものではないし、後悔とも違う。それでも、もう放っておいてほしい。
ぐちゃぐちゃとした頭の中とは裏腹に、丁寧に折り畳まれてしまわれていたシャツのような皺一つない言葉がすらすら出てきた。
「田口先生、そんな履歴書に書いただけのことを覚えてらしたんですね。ペラペラって程のものではないですけどね」
だからもうその話はしないでほしい。
「東の謙遜とか、もう似合わなすぎて笑っちまうレベルだなー」
無神経な先輩が独りごちる。聞こえてるっつうの。
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