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春、怖い
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すごく遠くか、あるいはすごく近くで、ものすごく大きな音がした。
瞑っていたかどうかすら定かでない目を開いた。
ふわっと後ずさった瀬戸の身体が、壁に打ち付けられて崩れる。
その瞬間がスローモーションのように酷くゆっくりと感じられた。
「…、った…」
咄嗟に身体をかばった右肩が痛むのか、瀬戸が小さく呻く。
祐樹だ。祐樹が、突き飛ばしたのだ。
「…ほんとに、大丈…夫…?」
それでも祐樹の心配をするから、頭からさーっと血の気が引いていくのがわかった。
ごめん、と、掠れてはいるが声が出せた。
「ごめん」
「いいけど、なんかあるなら言って欲しいんだけど…」
本当に心配そうな彼の表情を見て、少し前の自分なら喜べたのに、と思った。
なんで?
どうして急に、こんなに怖い?
更に近づいてきた瀬戸の指先が、触れる瞬間に…。
目の前が再び真っ黒に染まった。
頭に浮かび上がってきた一つの映像に、吐き気がした。
自分を囲む、屈強な男たち。知らない景色。
もう、瀬戸の姿が見えない。自分の部屋も、その外の世界も認識できない。
何もわからない。怖い。
「ごめん、もう帰って…」
恐らく暫く考え込んでいたのであろう。帰って、帰って、と繰り返しているうちに遠くで扉の開閉音が聞こえた。
ガチャ、という音。瀬戸が去ったことだけがわかり、更に不安が募った。
またしても先ほどの映像が、いや、過去の出来事が祐樹の脳内を支配していく。
どうして今まで忘れていられたのだろう。あんな出来事があったのに。
どうして。
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