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「何だとぉっ?」
「わー、褒められたー」
「褒めてねえ。ていうか俺がお前を褒めるなんてこと一生有り得ねえんだよ」
野木の口から飛び出したのは本日一番と言っても過言ではない爆弾発言だった。
「お前もう一度何があったか説明してみろ」
「だからー。お客さんに赤い卵渡したら『赤いのだとちょっと困るんですけど……』ってそのお客さんが言うから『えー、赤いのの方が綺麗だし、栄養もある気がするけど』って言って、そし」
ご丁寧に声マネまでしてその場を再現しようとする野木の頭をPOPの束でピコンと叩いて止めさせた。
「野木ぃ、お前の意見はいいんだよっ。もっと端折って話せ。俺は結局どうしたらいいんだ」
「うん、あのね『今日中にうちのデイリー主任がご自宅までお届け致します』って言って帰って貰ったよ。あんまりお客さん待たせると悪いし」
褒めろとばかりにに胸を張った野木が、制服のポケットからレシートを取り出した。
くしゃくしゃになったレシートの裏にはボールペンで何やら書き込んである。
「これお客さんの住所」
「お前はいつも勝手な事を……」
「あれ、チーフ何で怒ってるの? 何か辛いことでもあった?」
「もういいっ。お前はすぐ青果に帰れ、このポンコツがあっ」
野木を追い出しても倫祢の苛々は暫く収まらなかった。
「災難でしたね」
「全くですよ。何で俺が……」
「まあ野木くんも悪気があってした事じゃないので」
「悪気がないってのが余計に性質が悪いんですよ」
一部始終を見守っていたベーカリーの店長は物静かなタイプなので話しているうちに心が落ち着いてきた。
「それにしても、白い卵じゃなきゃ困るっていうお客さんもみえるんですね」
「とりあえず入社してから初めてですね」
「パン屋に届く卵はその時々で色が違いますが、気にしてもみたことないですね。そもそも赤と白の違いってあるんですか?」
これは以前お客さんに聞かれて調べたことがあった。
「いや、別に栄養価も何も変わりはしないらしいですよ。ただ、赤玉を産む鶏のほうが飼料を多く食べるのでその分価格に上乗せされてるそうですよ」
「へえー、帰ったら女房に教えてやるとしますか。いつも赤い卵を有り難そうに買っていましたから」
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